「遅いわ、ウォン‐ウォン!」ラベンダーが唇くちびるを尖とがらせた。
「お誕たん生じょう日びにあげようと思って――」
「ほっといてくれ」ロンが苛いらつきながら言った。
「ハリーが僕を、ロミルダ・ベインに紹介してくれるんだ」
それ以上一言も言わず、ロンは肖像画の穴に突進して出ていった。ハリーは、ラベンダーにすまなそうな顔を見せたつもりだったが、「太ふとった婦人レディ」が二人の背後でピシャリと閉じる直前、ラベンダーがますますむくれ顔になっていたことから考えると、ただ単に愉快ゆかいそうな表情になっていたのかもしれない。
スラグホーンが朝食に出ているのではないかと、ハリーはちょっと心配だったが、ドアを一回叩たたいただけで、緑のビロードの部屋着に、おそろいのナイトキャップをかぶったスラグホーンが、かなり眠そうな目をして現れた。
「ハリー」スラグホーンがブツブツ言った。
「訪問には早すぎるね……土曜日はだいたい遅くまで寝ているんだが……」
「先生、お邪魔じゃまして本当にすみません」
ハリーはなるべく小さな声で言った。ロンは爪つま先さき立だちになって、スラグホーンの頭越しに部屋を覗のぞこうとしていた。
「でも、友達のロンが、間違って惚ほれ薬ぐすりを飲んでしまったんです。先生、解げ毒どく剤ざいを調ちょう合ごうしてくださいますよね? マダム・ポンフリーのところに連れていこうと思ったんですが、ウィーズリー・ウィザード・ウィーズからは何も買ってはいけないことになっているから、あの……都合つごうの悪い質問なんかされると……」
「君なら、ハリー、君ほどの魔法薬作りの名手なら、治ち療りょう薬やくを調合できたのじゃないかね?」
「えーと」
ロンが無理やり部屋に入ろうとして、こんどはハリーの脇腹わきばらを小こ突づいているので、ハリーは気が散った。
「あの、先生、僕は惚れ薬の解毒剤を作ったことがありませんし、ちゃんと出来上がるまでに、ロンが何か大変なことをしでかしたりすると――」
うまい具合に、ちょうどそのときロンが呻うめいた。
「あの女ひとがいないよ、ハリー――この人が隠かくしてるのか?」
「その薬は使用期限内のものだったかね?」
スラグホーンは、こんどは専せん門もん家かの目でロンを見ていた。
「いやなに、長く置けば置くほど強力になる可能性があるのでね」
「それでよくわかりました」
スラグホーンを叩たたきのめしかねないロンと、いまや本気で格闘かくとうしながら、ハリーが喘あえぎ喘ぎ言った。
「先生、今日はこいつの誕たん生じょう日びなんです」ハリーが懇こん願がんした。
「ああ、よろしい。それでは入りなさい。さあ」スラグホーンが和やわらいだ。
「わたしのカバンに必要な物がある。難むずかしい解毒剤ではない……」