ロンが毒を盛もられたというニュースは、次の日たちまち広まったが、ケイティの事件ほどの騒ぎにはならなかった。ロンはそのとき魔法薬の先生の部屋にいたのだから、単なる事故だったのだろうと考えられたこともあり、すぐに解げ毒どく剤ざいを与えられたため大事には至らなかったというせいもある。事実、グリフィンドール生全体の関心は、むしろ差さし迫せまったクィディッチのハッフルパフ戦のほうに大きく傾いていた。ハッフルパフのチェイサー、ザカリアス・スミスが、シーズン開幕かいまくの対スリザリン戦であんな解説をしたからには、今回は十分にとっちめられるところを見たいと願ったからだ。
しかし、ハリーのほうは、いままでこんなにクィディッチから気持が離れたことはなかった。急速にドラコ・マルフォイに執しゅう着ちゃくするようになっていた。相変わらず、機会さえあれば「忍しのびの地ち図ず」を調べていたし、マルフォイの立ち寄った場所にわざわざ行ってみることもあったが、マルフォイがふだんと違うことをしている様子はなかった。しかし、不ふ可か解かいにも地図から消えてしまうことがときどきあった……。
ハリーには、この問題を深く考えている時間がなかった。クィディッチの練習、宿題、それにこんどは、あらゆるところでコーマック・マクラーゲンとラベンダー・ブラウンにつきまとわれていた。
二人のうちどっちがより煩わずらわしいのか、優劣ゆうれつをつけがたいほどだった。マクラーゲンは、ロンより自分のほうがキーパーのレギュラーとしてふさわしいと主張し、自分のプレイぶりを定期的に目にするハリーも、きっとそう考えるようになるに違いないと、ひっきりなしに仄ほのめかし続けた。その上、マクラーゲンはチームのほかのメンバーを批ひ評ひょうしたがり、ハリーに練習方法を細かく提示ていじした。ハリーは一度ならず、どっちがキャプテンかを言い聞かせなければならなかった。
一方ラベンダーは、しょっちゅうハリーににじり寄って、ロンのことを話した。ハリーは、マクラーゲンからクィディッチの説せっ教きょうを聞かされるよりもげんなりした。はじめのうちラベンダーは、ロンの入院を誰だれも自分に教えようとしなかったことで苛立いらだっていた――「だって、ロンのガールフレンドはわたしよ!」――ところが、不運なことに、ラベンダーは、ハリーが教えるのを忘れていたのは許すことに決め、こんどはロンの愛情について、ハリーに細々こまごまとしゃべりたがった。ハリーにとっては、喜んで願い下げにしたい、何とも不快な経験だった。
「ねえ、そういうことはロンに話せばいいじゃないか!」
ことさら長いラベンダーの質問攻ぜめに辟易へきえきしたあとで、ハリーが言った。ラベンダーの話は、自分の新しいローブについてロンがどう言ったか逐一ちくいち聞かせるところから、ロンが自分との関係を「本気」だと考えているかとハリーに意見を求めるところまで、ありとあらゆるものを含ふくんでいた。
「ええ、まあね。だけどわたしがお見み舞まいにいくとロンはいつも寝てるんですもの!」
ラベンダーはじりじりしながら言った。
「寝てる?」ハリーは驚いた。
ハリーが病びょう棟とうに行ったときはいつでも、ロンはしっかり目を覚ましていて、ダンブルドアとスネイプの口論こうろんに強い興味を示したし、マクラーゲンをこき下ろすのに熱心だった。
「ハーマイオニー・グレンジャーは、いまでもロンをお見舞いしてるの?」
ラベンダーが急に詰問きつもんした。
「ああ、そうだと思うよ。だって、二人は友達だろう?」
ハリーは気まずい思いで答えた。
「友達が聞いて呆あきれるわ」ラベンダーが嘲あざけるように言った。
「ロンがわたしとつき合い出してからは、何週間も口をきかなかったくせに! でも、その埋め合わせをしようとしているんだと思うわ。ロンがいまはすごくおもしろいから……」
「毒を盛もられたことが、おもしろいって言うのかい?」ハリーが聞いた。
「とにかく――ごめん、僕、行かなきゃ――マクラーゲンがクィディッチの話をしに来る」
ハリーは急いでそう言うと、壁かべのふりをしているドアに横っ飛びに飛び込み、魔ま法ほう薬やくの教室への近道を疾走しっそうした。ありがたいことに、ラベンダーもマクラーゲンも、そこまではついて来られなかった。