「ここから試合の解説が聞こえたんだ」ロンが言った。声が笑いで震ふるえていた。「これからはずっとルーナに解説してほしいよ……『負け犬病』か……」
ハリーは腹が立って、こんな状況にユーモアを感じるどころではなかった。しばらくすると、ロンの吹き出し笑いも収まった。
「君が意識を失ってるときに、ジニーが見み舞まいにきたよ」
しばらく黙だまったあとで、ロンが言った。
ハリーの妄想もうそうが「無理する」域いきにまで膨ふくれ上がった。たちまち、ぐったりした自分の体に取りすがって、ジニーがよよと泣く姿を想像した。ハリーに対する深い愛情を告白こくはくし、ロンが二人を祝しゅく福ふくする……。
「君が試合ぎりぎりに到着したって言ってた。どうしたんだ? ここを出たときは十じゅう分ぶん時間があったのに」
「ああ……」心しん象しょう風ふう景けいがパチンと内ない部ぶ崩ほう壊かいした。
「うん……それは、マルフォイが、いやいや一いっ緒しょにいるみたいな女の子を二人連れて、こそこそ動き回ってるのを見たからなんだ。ほかの生徒がクィディッチ競きょう技ぎ場じょうに行ってるのに、わざわざあいつが行かなかったのは、これで二度目だ。この前の試合にも来なかった。覚えてるか?」ハリーはため息をついた。
「試合がこんな惨敗ざんぱいなら、あいつを追跡ついせきしていればよかったって、いまではそう思ってるよ」
「ばか言うな」ロンが厳きびしい声を出した。
「マルフォイを追つけるためにクィディッチ試合を抜けるなんて、できるはずないじゃないか。君はキャプテンだ!」
「マルフォイが何を企たくらんでるのか知りたいんだ」ハリーが言った。
「それに、僕の勝手な想像だなんて言うな。マルフォイとスネイプの会話を聞いてしまった以上……」
「君の勝手な想像だなんて言ったことないぞ」
こんどはロンが片肘かたひじをついて体を起こし、ハリーを睨にらんだ。
「だけど、この城で何か企むことができるのは、一時に一人だけだなんてルールはない! 君はちょっとマルフォイにこだわりすぎだぞ。ハリー、あいつを追つけるのにクィディッチの試合を放棄ほうきするなんて考えるのは……」
「あいつの現場を押さえたいんだ!」ハリーがじれったそうに言った。
「だって、地図から消えてるとき、あいつはどこに行ってるんだ?」
「さあな……ホグズミードか?」ロンが欠伸あくび交じりに言った。
「あいつが、秘密の通路を通っていくところなんか、一度も地図で見たことがない。それに、そういう通路は、どうせいま、みんな見張られてるだろう?」
「さあ、そんなら、わかんないな」ロンが言った。
二人とも黙だまり込んだ。ハリーは天井のランプの灯あかりを見つめながら、じっと考えた……。