ルーファス・スクリムジョールほどの権力があれば、マルフォイに尾行びこうをつけられるだろうが、残念ながら、ハリーが意のままにできる「闇やみ祓ばらい」が大勢いる局きょくなどない……。DディーAエイを使って何か作り上げようかとちらりと考えたが、結局DAのメンバーの大部分は、やはり時間割がぎっしり詰まっているので、誰だれかが授じゅ業ぎょうを休まなければならないという問題が出てくる……。
ロンのベッドから、グーグーと低いいびきが聞こえてきた。しばらくして、マダム・ポンフリーが、こんどは分厚い部屋着を着て事務室から出てきた。狸たぬ寝き入ねいりするのがいちばん簡単だったので、ハリーはごろりと横を向き、マダム・ポンフリーの杖つえでカーテンが全部閉まっていく音を聞いていた。ランプが暗くなり、マダム・ポンフリーは事務室に戻もどっていった。その背後でドアがカチリと閉まる音が聞こえ、マダム・ポンフリーが自分のベッドに向かっているのがわかった。
クィディッチのけがで入院したのはこれで三度目だと、暗くら闇やみの中でハリーは考えに耽ふけった。前回は、吸きゅう魂こん鬼きが競きょう技ぎ場じょうに現れたせいで、箒ほうきから落ちたし、その前は、どうしようもない無能なロックハート先生のおかげで片腕の骨が全部なくなった……あのときがいちばん痛かった……一晩ひとばんで片腕全部の骨を再生する苦しみを、ハリーは思い出した。あの不ふ快かい感かんを一段と悪化させたのは、夜中に予期せぬ訪問者がやってきたことで――。
ハリーはガバッと起き上がった。心臓がドキドキして、ターバン巻き包帯ほうたいが横にずれていた。ついに解決法を見つけたのだ。マルフォイを尾行する方法が、あった――どうして忘れていたのだろう? どうしてもっと早く思いつかなかったのだろう?
しかし、どうやったら呼び出せるのか? どうやるんだったっけ? ハリーは低い声で、遠えん慮りょがちに、暗闇に向かって話しかけた。
「クリーチャー?」
バチンと大きな音がして、静かな部屋が、ガサゴソ動き回る音とキーキー声で一杯になった。ロンがギャッと叫さけんで目を覚ました。
「なんだぁ――?」
ハリーは急いで事務室に杖を向け、「マフリアート! 耳塞みみふさぎ!」と唱となえて、マダム・ポンフリーが飛んでこないようにした。それから、何事が起こっているかをよく見ようと、急いでベッドの足側のほうに移動した。
「屋敷やしきしもべ妖よう精せい」が二人、病室のまん中の床を転げ回っていた。一人は縮ちぢんだ栗色くりいろのセーターを着て、毛糸の帽子ぼうしを数個かぶっている。もう一人は汚らしいボロを腰布こしぬののように巻きつけている。そこへもう一度大きな音がして、ポルターガイストのピーブズが、取っ組み合っているしもべ妖よう精せいの頭上に現れた。