「ポッティ! 俺おれが見物してたんだぞ!」
けんかを指差しながら、ピーブズが怒ったように言った。それからクアックアッと高笑いした。
「ババッチイやつらがつかみ合い。パックンバックン、ポックンボックン――」
「クリーチャーはドビーの前でハリー・ポッターを侮ぶ辱じょくしないのです。絶対にしないのです。さもないと、ドビーは、クリーチャーめの口を封ふうじてやるのです!」
ドビーがキーキー声で叫さけんだ。
「――ケッポレ、カッポレ!」
ピーブズが、こんどはチョーク弾丸だんがんを投げつけて、しもべ妖精を扇動せんどうしていた。
「ヒッパレ、ツッパレ!」
「クリーチャーは、自分のご主人様のことを何とでも言うのです。ああ、そうです。なんというご主人様だろう。汚けがらわしい『穢けがれた血』の仲間だ。ああ、クリーチャーの哀あわれな女主人様は、何とおっしゃるだろう――?」
クリーチャーの女主人様が何とおっしゃったやら、正確には聞けずじまいだった。なにしろそのとたんに、ドビーがゴツゴツした小さな拳骨げんこつをクリーチャーの口に深々とお見み舞まいし、歯を半分も吹ふっ飛ばしてしまったのだ。ハリーもロンも、ベッドから飛び出し、二人のしもべ妖精を引き離した。しかし二人とも、ピーブズに煽あおられて、互いに蹴けったりパンチを繰くり出そうとしたりし続けていた。ピーブズは、襲おそいかかるようにランプの周まわりを飛び回りながら、ギャーギャー喚わめき立てた。
「鼻はなに指を突っ込め、鼻血出させろ、耳を引っぱれ――」
ハリーはピーブズに杖つえを向けて唱となえた。
「ラングロック! 舌縛したしばり!」
ピーブズは喉のどを押さえ、息を詰まらせて、部屋からスーッと消えていった。指で卑猥ひわいな仕種しぐさをしたものの、口蓋こうがいに舌が貼はりついていて、何も言えなくなっていた。
「いいぞ」
ドビーを高く持ち上げて、じたばたする手足がクリーチャーに届かないようにしながら、ロンが感心したように言った。
「そいつもプリンスの呪のろいなんだろう?」
「うん」ハリーは、クリーチャーの萎しなびた腕を羽は交がい締じめに締しめ上げながら言った。
「よし――二人ともけんかすることを禁じる! さあ、クリーチャー、おまえはドビーと戦うことを禁じられている。ドビー、君には命令が出せないって、わかっているけど――」
「ドビーは自由な屋敷やしきしもべ妖よう精せいなのです。だから誰だれでも自分の好きな人に従うことができます。そしてドビーは、ハリー・ポッターがやってほしいということなら何でもやるのです!」
ドビーの萎しなびた小さな顔を伝う涙なみだが、いまやセーターに滴したたっていた。
「オッケー、それなら」
ハリーとロンがしもべ妖精を放すと、二人とも床に落ちたが、けんかを続けはしなかった。