「ご主人様はお呼びになりましたか?」
クリーチャーは嗄しわがれ声でそう言うと、ハリーが痛い思いをして死ねばいいとあからさまに願う目つきをしながらも、深々とお辞じ儀ぎをした。
「ああ、呼んだ」
ハリーは「マフリアート」の呪じゅ文もんがまだ効きいているかどうかを確かめようと、マダム・ポンフリーの事務室のドアにちらりと目を走らせながら言った。騒ぎが聞こえた形けい跡せきはまったくなかった。
「おまえに仕事をしてもらう」
「クリーチャーはご主人様がお望みなら何でもいたします」
クリーチャーは、節ふしくれ立った足の指に唇くちびるがほとんど触ふれるぐらい深々とお辞儀をした。
「クリーチャーは選択せんたくできないからです。しかしクリーチャーはこんなご主人を持って恥はずかしい。そうですとも――」
「ドビーがやります。ハリー・ポッター!」
ドビーがキーキー言った。テニスボールほどある目玉はまだ涙に濡ぬれていた。
「ドビーは、ハリー・ポッターのお手伝いするのが光栄こうえいなのです」
「考えてみると、二人いたほうがいいだろう」ハリーが言った。
「オッケー、それじゃ……二人とも、ドラコ・マルフォイを尾行びこうしてほしい」
ロンが驚いたような、呆あきれたような顔をするのを無視して、ハリーは言葉を続けた。
「あいつがどこに行って、誰に会って、何をしているのかを知りたいんだ。あいつを二十四時間尾行してほしい」
「はい。ハリー・ポッター!」ドビーが興こう奮ふんに大きな目を輝かがやかせて、即座そくざに返事した。
「そして、ドビーが失敗したら、ドビーは、いちばん高い塔とうから身を投げます。ハリー・ポッター!」
「そんな必要はないよ」ハリーが慌あわてて言った。
「ご主人様は、クリーチャーに、マルフォイ家のいちばんお若い方を追つけろとおっしゃるのですか?」クリーチャーが嗄れ声で言った。
「ご主人様がスパイしろとおっしゃるのは、クリーチャーの昔の女主人様の姪御めいご様の、純じゅん血けつのご子息しそくですか?」
「そいつのことだよ」
ハリーは、予想される大きな危険を、いますぐに封ふうじておこうと決意した。
「それに、クリーチャー、おまえがやろうとしていることを、あいつに知らせたり、示したりすることを禁じる。あいつと話すことも、手紙を書くことも、それから……それからどんな方法でも、あいつと接せっ触しょくすることを禁じる。わかったか?」
与えられたばかりの命令の抜け穴を探そうと、クリーチャーがもがいているのが、ハリーには見えるような気がした。ハリーは待った。ややあって、ハリーにとっては大満足だったが、クリーチャーが再び深くお辞じ儀ぎし、恨うらみを込めて苦々にがにがしくこう言った。
「ご主人様はあらゆることをお考えです。そしてクリーチャーはご主人様に従わねばなりません。たとえクリーチャーがあのマルフォイ家の坊ちゃまの召使めしつかいになるほうがずっといいと思ってもです。ああ、そうですとも……」
「それじゃ、決まった」ハリーが言った。
「定期的に報告してくれ。ただし、現れるときは、僕の周まわりに誰だれもいないのを確かめること。ロンとハーマイオニーはかまわない。それから、おまえたちがやっていることを、誰にも言うな。二枚のイボ取り絆ばん創そう膏こうみたいに、マルフォイにピッタリ貼はりついているんだぞ」