三十分後に朝食に現れたロンは、むっつりして苛立いらだっていた。ラベンダーと並んで腰掛こしかけてはいたものの、ハリーはその間ずっと、二人が言葉を交わすところを見なかった。ハーマイオニーは、そんなことにいっさい気づかないように振舞ふるまっていたが、一、二度、不ふ可か解かいなひとり笑えみが顔を過よぎったのにハリーは気づいた。その日は一日中、ハーマイオニーは上じょう機き嫌げんで、夕方談だん話わ室しつにいるとき、ハリーの薬やく草そう学がくのレポートを見るという(ということは、仕上げるということなのだが)頼みに応おうじてくれた。そんなことをすれば、ハリーがロンに丸写しさせることを知っていたハーマイオニーは、これまで、そんな依頼いらいは絶対にお断ことわりだったのだ。
「ありがとう、ハーマイオニー」
ハリーは、ハーマイオニーの背中をポンポン叩たたきながら腕時計を見た。もう八時近くだった。
「あのね、僕、急がないとダンブルドアとの約束に遅れちゃう……」
ハーマイオニーは答えずに、ハリーの文章の弱いところを、大儀たいぎそうに削除さくじょしていた。ハリーはひとりでニヤニヤ笑いながら、急いで肖しょう像ぞう画がの穴を通り、校長室に向かった。ガーゴイルは、「タフィー エクレア」の合あい言葉ことばで飛びのき、ハリーが動く螺ら旋せん階かい段だんを二段跳とびに駆かけ上がってドアを叩たたいたときに、中の時計がちょうど八時を打った。
「お入り」
ダンブルドアの声がした。ハリーがドアに手をかけて押し開けようとすると、ドアが内側からぐいと引っぱられた。そこに、トレローニー先生が立っていた。
「ははーん!」
拡かく大だい鏡きょうのようなメガネの中から、目を瞬しばたたかせてハリーを見つめ、トレローニー先生は芝居しばいがかった仕種しぐさでハリーを指差した。
「あたくしが邪険じゃけんに放り出されるのは、このせいでしたのね、ダンブルドア!」
「これこれ、シビル」ダンブルドアの声が微かすかに苛立いらだっていた。
「あなたを邪険に放り出すなどありえんことじゃ。しかし、ハリーとはたしかに約束があるし、これ以上何も話すことはないと思うが――」
「結構けっこうですわ」トレローニー先生は、深く傷ついたような声で言った。
「あたくしの地位を不当に奪うばった、あの馬を追放ついほうなさらないのでしたら、いたしかたございませんわ……あたくしの能力をもっと評ひょう価かしてくれる学校を探すべきなのかもしれません……」
トレローニー先生は、ハリーを押しのけて螺旋階段に消えた。階段半ばでつまずく音が聞こえ、ハリーは、だらりと垂たれたショールのどれかを踏ふんづけたのだろう、と思った。
「ハリー、ドアを閉めて、座るがよい」ダンブルドアはかなり疲れた声で言った。
ハリーは言われたとおりにした。ダンブルドアの机の前にあるいつもの椅い子すに座りながら、二人の間に「憂うれいの篩ふるい」がまた置かれ、渦巻うずまく記憶がぎっしり詰まったクリスタルの小瓶こびんが二本、並んでいることに気がついた。
「あたくしの地位を不当に奪うばった、あの馬を追放ついほうなさらないのでしたら、いたしかたございませんわ……あたくしの能力をもっと評ひょう価かしてくれる学校を探すべきなのかもしれません……」
トレローニー先生は、ハリーを押しのけて螺旋階段に消えた。階段半ばでつまずく音が聞こえ、ハリーは、だらりと垂たれたショールのどれかを踏ふんづけたのだろう、と思った。
「ハリー、ドアを閉めて、座るがよい」ダンブルドアはかなり疲れた声で言った。
ハリーは言われたとおりにした。ダンブルドアの机の前にあるいつもの椅い子すに座りながら、二人の間に「憂うれいの篩ふるい」がまた置かれ、渦巻うずまく記憶がぎっしり詰まったクリスタルの小瓶こびんが二本、並んでいることに気がついた。