「それじゃ、トレローニー先生は、フィレンツェが教えることをまだいやがっているのですか?」ハリーが聞いた。
「そうじゃ」ダンブルドアが言った。
「わし自身が占うらないを学んだことがないものじゃから、『占い学』はわしの予見よけんを超こえて厄介やっかいなことになっておる。フィレンツェに森に帰れとは言えぬ。追放ついほうの身じゃからのう。さりとてシビル・トレローニーに去れとも言えぬ。ここだけの話じゃが、シビルが城の外に出ればどんな危険な目に遭あうか、シビルにはまったくわかっておらぬ。シビル自身は知らぬことじゃが――それに、知らせるのは賢明けんめいではないと思うが――きみとヴォルデモートに関する予言をしたのは、それ、シビル・トレローニーなのじゃから」
ダンブルドアは深いため息をついてから、こう言った。
「教きょう職しょく員いんの問題については、心配するでない。我々にはもっと大切な話がある。まず、前回の授じゅ業ぎょうの終わりにきみに出した課題かだいは処しょ理りできたかね?」
「あっ」ハリーは突然思い出した。
「姿すがた現あらわし」の練習やらクィディッチやら、ロンが毒を盛もられたり自分の頭ず蓋がい骨こつが割られたりした上、ドラコ・マルフォイの企たくらみを暴あばきたい一心で、ハリーは、スラグホーン先生から記憶を引き出すようにとダンブルドアに言われていたことを、すっかり忘れていた……。
「あの、先生、スラグホーン先生に魔ま法ほう薬やくの授業のあとでそのことを聞きました。でも、あの、教えてくれませんでした」
しばらく沈ちん黙もくが流れた。
「さようか」やっとダンブルドアが口を開いた。
半月メガネの上からじっと覗のぞかれ、ハリーは、まるでレントゲンで透視とうしされているような、いつもの感覚に襲おそわれた。
「それできみは、このことに最さい善ぜんを尽くしたと、そう思っておるかね? きみの少なからざる創そう意い工く夫ふうの能力を、余すところなく駆く使ししたのかね? その記憶を取り出すという探たん求きゅうのために、最後の一滴いってきまで知恵を絞しぼりきったのかね?」
「あの……」
ハリーは何と受け答えすべきか、言葉に詰まった。記憶を取り出そうとしたのはたった一回だったというのでは、お粗末そまつで、急に恥はずかしく思えた。
「あの……ロンが間違って惚ほれ薬ぐすりを飲んでしまった日に、僕、ロンをスラグホーン先生のところに連れていきました。先生をいい気分にさせれば、もしかして、と思ったんです――」
「それで、それはうまくいったのかね?」ダンブルドアが聞いた。
「あの、いいえ、先生。ロンが毒を飲んでしまったものですから――」
「――それで、当然、きみは記憶を引き出すことなど忘れ果ててしまった。親友が危険なうちは、わしもそれ以外のことを期待せんじゃろう。しかし、ミスター・ウィーズリーが完全に回復するとはっきりした時点で、わしの出した課題に戻もどってもよかったのではないかな。あの記憶がどんなに大事なものかということを、わしはきみにはっきり伝えたと思う。そればかりか、それがもっとも肝心かんじんな記憶であり、それがなければこの授じゅ業ぎょうの時間はむだじゃときみにわからせようと、わしは最大限努力したつもりじゃ」