「これまでは、きみも同意見じゃと思うが、ヴォルデモートが十七歳になるまでのことに関して、わしの推量の根拠こんきょとなるかなり確かな事実を、きみに示してきたの?」
ハリーは頷うなずいた。
「しかし、これからは、ハリー」ダンブルドアが言った。
「これから先、事はだんだん不確かで、不ふ可か思し議ぎになっていく。リドルの少年時代に関する証しょう拠こを集めるのも困難こんなんじゃったが、成人したヴォルデモートに関する記憶を語ってくれる者を見つけるのは、ほとんど不可能じゃった。事実、リドルがホグワーツを去ってからの生き方を完全に語れるのは、本人を除のぞけば、一人として生存しておらぬのではないかと思う。しかし、最後に二つ残っておる記憶を、これからきみとともに見よう」
ダンブルドアは、「憂うれいの篩ふるい」の横で、微かすかに光っている二本のクリスタルの小瓶こびんを指した。
「見たあとで、わしの引き出した結論が、ありうることかどうか、きみの意見を聞かせてもらえればありがたい」
ダンブルドアが自分の意見をこれほど高く評ひょう価かしているのだと思うと、ホークラックスの記憶を引き出す課題かだいをやり損そこねたことを、ハリーはますます深く恥はじ入った。ダンブルドアが最初の一本を取り上げて、光にかざして調べているとき、ハリーは申しわけなさに座ったままもじもじしていた。
「他人の記憶に潜もぐり込むことに飽あきてはおらんじゃろうな。これからの二つは、興味ある記憶なのでのう」ダンブルドアが言った。
「最初のものは、ホキーという名の非常に年老いた屋敷やしきしもべ妖よう精せいから取ったものじゃ。ホキーが目もく撃げきしたものを見る前に、ヴォルデモート卿きょうがどのようにしてホグワーツを去ったかを手て短みじかに語らねばなるまい」
「あの者は七年生になった。成績は、きみも予想したじゃろうが、受けた試験はすべて一番じゃった。あの者の周囲では、級友たちが、ホグワーツ卒業後にどんな仕事に就つくかを決めているところじゃった。トム・リドルに関しては、ほとんどすべての者が、輝かがやかしい何かを期待しておった。監かん督とく生せいで首席しゅせき、学校に対する特別とくべつ功こう労ろう賞しょうの経歴けいれきじゃからのう。スラグホーン先生を含めて何人かの先生方が、魔法省に入省するように勧すすめ、面接を設定せっていしようと申し出たり、有力な人じん脈みゃくを紹介しようとしたりしたのじゃ。あの者はそれをすべて断ことわった。教きょう職しょく員いんが気づいたときには、あの者はボージン・アンド・バークスで働いておった」
「ボージン・アンド・バークス?」ハリーは度肝どぎもを抜かれて聞き返した。
「ボージン・アンド・バークスじゃ」ダンブルドアが静かに繰くり返した。
「ホキーの記憶に入ってみれば、あの者にとって、その場所はどのような魅み力りょくがあったのかがわかるはずじゃ。しかしながら、この仕事がヴォルデモートにとっての第一の選せん択たく肢しではなかった。そのときにそれを知っていた者はほとんどいなかった――その当時の校長が打ち明けた数少ない者の一人がわしなのじゃが――ヴォルデモートは、まずディペット校長に近づき、ホグワーツの教師として残れないかと聞いたのじゃ」
「ここに残りたい? どうして?」ハリーはますます驚いて聞いた。
「理由はいくつかあったじゃろうが、ヴォルデモートはディペット校長に何一つ打ち明けはせなんだ」ダンブルドアが言った。
「第一に、非常に大切なことじゃが、ヴォルデモートはどんな人間にも感じておらなかった親しみを、この学校には感じておったのじゃろうと、わしはそう考えておる。あの者がいちばん幸せじゃったのはホグワーツにおるときで、そこがくつろげる最初の、そして唯ゆい一いつの場所だったのじゃ」
それを聞いてハリーは、少し当惑とうわくした。ハリーもホグワーツに対して、まったく同じ思いを抱いていたからだ。