「第二に、この城は古代魔法の牙が城じょうじゃ。ヴォルデモートは、ここを通過していった大多数の生徒たちより、ずっと多くの秘密をつかんでいたに相違そういない。しかし、まだ開かれていない神しん秘ぴや、利用されておらぬ魔法の宝庫ほうこがあると感じておったのじゃろう」
「そして第三に、教師になれば、若い魔法使いたちに大きな権力と影えい響きょう力りょくを行使こうしできたはずじゃ。おそらく、いちばん親しかったスラグホーン先生から、そうした考えを得たのじゃろう。教師がどんなに影響力のある役目を果たせるかを、スラグホーン先生が示したわけじゃな。ヴォルデモートがずっと一生ホグワーツで過ごす計画だったとは、わしは微塵みじんも考えてはおらぬ。しかし、人材じんざいを集め、自分の軍隊ぐんたいを組織する場所として、ここが役に立つと考えたのじゃろう」
「でも、先生、その仕事が得られなかったのですね?」
「そうじゃ。ディペット先生は、十八歳では若すぎるとヴォルデモートに告げ、数年経たってもまだ教えたいと願うなら、再さい応募おうぼしてはどうかと勧すすめたのじゃ」
「先生は、そのことをどう思われましたか?」ハリーは遠えん慮りょがちに聞いた。
「非常に懸念けねんした」ダンブルドアが言った。
「わしは前もって、アーマンドに、採用さいようせぬようにと進言しんげんしておった――いまきみに教えたような理由を言わずにじゃ。ディペット校長はヴォルデモートを大変気に入っておったし、あの者の誠意せいいを信じておったからのう――しかしわしは、ヴォルデモート卿きょうがこの学校に戻もどることを、特に権力を持つ職しょくに就つくことを欲ほっしなかったのじゃ」
「どの職を望んだのですか、先生? 教えたがったのは、どの学科ですか?」
ハリーはなぜか、ダンブルドアが答える前に、答えがわかっていたような気がした。
「『闇やみの魔ま術じゅつに対する防ぼう衛えい術じゅつ』じゃ。その当時は、ガラテア・メリィソートという名の老ろう教きょう授じゅが教えておった。ほとんど半世紀、ホグワーツに在ざい職しょくした先生じゃ」
「そこで、ヴォルデモートはボージン・アンド・バークスへと去り、あの者を称しょう賛さんしておった教師たちは、口をそろえて、あんな優秀な魔法使いが店員とはもったいないと言ったものじゃ。しかし、ヴォルデモートは単なる使用人にとどまりはしなかった。丁寧ていねいな物腰ものごしの上にハンサムで賢かしこいヴォルデモートは、まもなくボージン・アンド・バークスのような店にしかない、特別な仕事を任まかされるようになった。あの店は、きみも知ってのとおり、強い魔力のある珍めずらしい品物を扱っておる。ヴォルデモートは、そうした宝物を手放して店で売るように説得せっとくする役目を任され、持ち主のところに送り込まれた。そして、ヴォルデモートは、聞き及ぶところによると、その仕事に稀け有うな才能を発揮はっきした」
「よくわかります」ハリーは黙だまっていられなくなって口を挟はさんだ。
「ふむ、そうじゃろう」ダンブルドアが微笑ほほえんだ。
「さて、ホキーの話を聞くときが来た。この屋敷やしきしもべ妖よう精せいが仕つかえていたのは、年老いた大金持ちの魔女で、名前をヘプジバ・スミスと言う」
ダンブルドアが杖つえで瓶びんを軽く叩たたくと、コルク栓せんが飛んだ。ダンブルドアは渦巻うずまく記憶を「憂うれいの篩ふるい」に注ぎ込み終えると、「ハリー、先にお入り」と言った。
ハリーは立ち上がり、また今回も、石の水すい盆ぼんの中で漣さざなみを立てている銀色の物質に屈かがみ込み、顔がその表面に触ふれた。暗い無の空間を転げ落ち、ハリーが着地した先は、でっぷり太った老ろう婦人ふじんが座っている居い間まだった。ごてごてした赤毛の鬘かずらを着け、けばけばしいピンクのローブを体の周まわりに波打なみうたせ、デコレーション・ケーキが溶とけかかったような姿だった。
婦人は宝石で飾かざられた小さな鏡を覗のぞき込み、もともとまっ赤な頬ほおに、巨大なパフで頬紅ほおべにをはたき込んでいた。足元では、ハリーがこれまでに見た中でもいちばん年寄りで、いちばん小さなしもべ妖精の老女が、ぶくぶくした婦人の足を、きつそうなサテンのスリッパに押し込み、紐ひもを結んでいた。