「今日はどういう口こう実じつでいらっしゃったのかしら?」
ヘプジバが睫毛まつげをパチパチさせながら聞いた。
「店主のバークが、ゴブリンが鍛きたえた甲かっ冑ちゅうの買い値を上げたいと申しております」
ヴォルデモートが言った。
「五百ガリオンです。これは普通ならつけない、よい値だと申して――」
「あら、まあ、そうお急ぎにならないで。それじゃ、まるであたくしの小道具だけをお目当てにいらしたと思ってしまいますことよ!」ヘプジバはヴォルデモートの言葉を遮った。
「そうした物のために、ここに来るように命じられております」
ヴォルデモートが静かに言った。
「マダム、わたくしは単なる使用人の身です。命じられたとおりにしなければなりません。店主のバークから、お伺うかがいしてくるようにと命じられまして――」
「まあ、バークさんなんか、ぷふー!」ヘプジバは小さな手を振りながら言った。
「あなたにお見せする物がありますのよ。バークさんには見せたことがない物なの! トム、秘密を守ってくださる? バークさんには、あたくしが持っているなんて言わないって約束してくださる? あなたに見せたとわかったら、あの人、あたくしを一時も安らがせてくれませんわ。でもあたくしは売りません。バークには売らないし、誰だれにも売りませんわ! でも、トム、あなたには、その物の歴史的価値がおわかりになるわ。ガリオン金貨が何枚になるかの価値じゃなくってね……」
「ミス・ヘプジバが見せてくださる物でしたら、何でも喜んで拝見はいけんいたします」
ヴォルデモートが静かに言った。ヘプジバは、また少女のようにクスクス笑った。
「ホキーに持ってこさせてありますのよ……ホキー、どこなの? リドルさんにわが家の最高の秘宝ひほうをお見せしたいのよ……ついでだから、二つとも持っていらっしゃい……」
「マダム、お持ちしました」
しもべ妖よう精せいのキーキー声でハリーが見ると、二つ重がさねにした革かわ製せいの箱が動いていた。小さなしもべ妖精が頭に載のせて運んでいることはわかっていたが、まるでひとりでに動いているかのように、テーブルやクッション、足載せ台の間を縫ぬって、部屋の向こうからやってくるのが見えた。
「さあ」しもべ妖精から箱を受け取り、膝ひざの上に載せて上の箱を開ける準備をしながら、ヘプジバがうれしそうに言った。
「きっと気に入ると思うわ、トム……ああ、あなたにこれを見せていることを親族しんぞくが知ったら……あの人たち、喉のどから手が出るほどこれがほしいんだから!」
ヘプジバが蓋ふたを開けた。ハリーはよく見ようと少し身を乗り出した。入にゅう念ねんに細工さいくされた二つの取っ手がついた、小さな金きんのカップが見えた。
「何だかおわかりになるかしら、トム? 手に取ってよく見てごらんなさい!」
ヘプジバが囁ささやくように言った。ヴォルデモートはすらりとした指を伸ばし、絹きぬの中にすっぽりと納まっているカップを、取っ手の片方を握って取り出した。ハリーは、ヴォルデモートの暗い目がちらりと赤く光るのを見たような気がした。舌舐したなめずりするようなヴォルデモートの表情は、奇き妙みょうなことに、ヘプジバの顔にも見られた。ただし、その小さな目は、ヴォルデモートのハンサムな顔に釘くぎづけになっていた。