「穴熊あなぐま」ヴォルデモートがカップの刻印こくいんを調べながら呟つぶやいた。
「すると、これは……?」
「ヘルガ・ハッフルパフの物よ。よくご存知ぞんじのようにね。なんて賢かしこい子!」
ヘプジバはコルセットの軋きしむ大きな音とともに、前屈まえかがみになり、ヴォルデモートの窪くぼんだ頬ほおを本当につねった。
「あたくしが、ずっと離れた子孫しそんだって言わなかった? これは先祖せんぞ代々受け継がれてきた物なの。きれいでしょう? それに、どんなにいろいろな力が秘ひめられていることか。でも、あたくしは完全に試してみたことがないの。ただ、こうして大事に、安全にしまっておくだけ……」
ヘプジバはヴォルデモートの長い指からカップをはずし、そっと箱に戻もどした。丁寧ていねいに元の場所に納めるのに気を取られて、ヘプジバは、カップが取り上げられたときにヴォルデモートの顔を過よぎった影に気づかなかった。
「さて、それじゃあ」ヘプジバがうれしそうに言った。
「ホキーはどこ? ああ、そこにいたのね――これを片付けなさい、ホキー――」
しもべ妖よう精せいは従じゅう順じゅんに箱入りのカップを受け取り、ヘプジバは膝ひざに載のっているもっと平たい箱に取りかかった。
「トム、あなたには、こちらがもっと気に入ると思うわ」ヘプジバが囁ささやいた。
「少し屈かがんでね、さあ、よく見えるように……もちろん、バークは、あたくしがこれを持っていることを知っていますよ。あの人から買ったのですからね。あたくしが死んだら、きっと買い戻したがるでしょうね……」
ヘプジバは精緻せいちな金銀線せん細ざい工くの留とめ金がねをはずし、パチンと箱を開けた。滑なめらかな真紅しんくのビロードの上に載っていたのは、どっしりした金きんのロケットだった。
ヴォルデモートは、こんどは促うながされるのも待たずに手を伸ばし、ロケットを明かりにかざしてじっと見つめた。
「スリザリンの印」ヴォルデモートが小声で言った。
曲がりくねった飾かざり文字の「Sエス」に光が踊り、煌きらめかせていた。