「あなたがこれほど長くここにとどまっていることに、驚いています」
短い沈ちん黙もくの後、ヴォルデモートが言った。
「あなたほどの魔法使いが、なぜ学校を去りたいと思われなかったのか、いつも不思議に思っていました」
「さよう」ダンブルドアはまだ微笑んでいた。
「わしのような魔法使いにとっていちばん大切なことは、昔からの技を伝え、若い才能を磨みがく手助けをすることなのじゃ。わしの記憶が正しければ、きみもかつて教えることに惹ひかれたことがあったのう」
「いまでもそうです」ヴォルデモートが言った。
「ただ、なぜあなたほどの方が、と疑問に思っただけです――魔法省からしばしば助言じょげんを求められ、魔法大臣になるようにと、たしか二度も請こわれたあなたが――」
「実は最終的に三度じゃ」ダンブルドアが言った。
「しかしわしは、一生の仕事として、魔法省には一度も惹ひかれたことはない。またしても、きみとわしとの共通点じゃのう」
ヴォルデモートは微笑ほほえみもせず首を傾かしげて、またワインを一口飲んだ。いまや二人の間に張り詰めている沈黙を、ダンブルドアは自分からは破らず、楽しげに期待するかのような表情で、ヴォルデモートが口を開くのを待ち続けていた。
「わたくしは戻もどってきました」しばらくしてヴォルデモートが言った。
「ディペット校長が期待していたよりも遅れたかもしれませんが……しかし、戻ってきたことには変わりありません。ディペット校長がかつて、わたくしが若すぎるからとお断ことわりになったことを再び要請ようせいするために戻りました。この城に戻って教えさせていただきたいと、あなたにお願いするためにやってまいりました。ここを去って以来、わたくしが多くのことを見聞けんぶんし、成なし遂とげたことを、あなたはご存知ぞんじだと思います。わたくしは、生徒たちに、ほかの魔法使いからは得られないことを示し、教えることができるでしょう」
ダンブルドアは、手にしたゴブレットの上から、しばらくヴォルデモートを観察していたが、やがて口を開いた。
「いかにもわしは、きみがここを去って以来、多くのことを見聞し、成し遂げてきたことを知っておる」ダンブルドアが静かに言った。
「きみの所しょ行ぎょうは、トム、風の便たよりできみの母校にまで届いておる。わしはその半分も信じたくない気持じゃ」
ヴォルデモートは相変わらずうかがい知れない表情で、こう言った。
「偉大いだいさは妬ねたみを招まねき、妬みは恨うらみを、恨みは嘘うそを招く。ダンブルドア、このことは当然ご存知でしょう」
「自分がやってきたことを、きみは『偉大さ』と呼ぶ。そうかね?」
ダンブルドアは微び妙みょうな言い方をした。
「もちろんです」
ヴォルデモートの目が赤く燃えるように見えた。
「わたくしは実験した。魔法の境きょう界かい線せんを広げてきた。おそらく、これまでになかったほどに――」
「ある種の魔法と言うべきじゃろう」ダンブルドアが静かに訂正ていせいした。
「ある種の、ということじゃ。ほかのことに関して、きみは……失礼ながら……嘆なげかわしいまでに無知じゃ」
ヴォルデモートがはじめて笑えみを浮かべた。引きつったような薄うすら笑いは、怒りの表情よりももっと人を脅おびやかす、邪悪じゃあくな笑みだった。