「古くさい議論ぎろんだ」ヴォルデモートが低い声で言った。
「しかし、ダンブルドア、わたくしが見てきた世の中では、わたくしが頼みとする魔法より愛のほうがはるかに強力だとするあなたの有名な見解けんかいを裏づけるものは、何もありませんでした」
「おそらくきみは、間違ったところを見てきたのであろう」ダンブルドアが言った。
「それならば、わたくしが新たに研究を始める場として、ここ、ホグワーツほど適切てきせつな場所があるでしょうか?」ヴォルデモートが言った。
「戻もどることをお許し願えませんか? わたくしの知識を、あなたの生徒たちに与えさせてくださいませんか? わたくし自身とわたくしの才能を、あなたの手に委ゆだねます。あなたの指し揮きに従います」
ダンブルドアが眉まゆを吊つり上げた。
「すると、きみが指揮する者たちはどうなるのかね? 自ら名乗って――という噂うわさではあるが――『死し喰くい人びと』と称しょうする者たちはどうなるのかね?」
ヴォルデモートには、ダンブルドアがこの呼こ称しょうを知っていることが予想外だったのだと、ハリーにはわかった。ヴォルデモートの目がまた赤く光り、細く切れ込んだような鼻はなの穴が広がるのを、ハリーは見た。
「わたくしの友達は――」
しばらくの沈ちん黙もくのあと、ヴォルデモートが言った。
「わたくしがいなくとも、きっとやっていけます」
「その者たちを、友達と考えておるのは喜ばしい」ダンブルドアが言った。
「むしろ、召使めしつかいの地位ではないかという印象を持っておったのじゃが」
「間違っています」ヴォルデモートが言った。
「さすれば、今夜ホッグズ・ヘッドを訪れても、そういう集団はおらんのじゃろうな――ノット、ロジエール、マルシベール、ドロホフ――きみの帰りを待っていたりはせぬのじゃろうな? まさに献けん身しん的てきな友達じゃ。雪の夜を、きみとともにこれほどの長旅ながたびをするとは。きみが教きょう職しょくを得ようとする試みに成功するようにと願うためだけにのう」
一いっ緒しょに旅してきた者たちのことをダンブルドアが詳くわしく把握はあくしているのが、ヴォルデモートにとって、なおさらありがたくないということは、目に見えて明らかだった。しかし、ヴォルデモートは、たちまち気を取り直した。
「相変わらず何でもご存知ぞんじですね、ダンブルドア」
「いや、いや、あそこのバーテンと親しいだけじゃ」ダンブルドアが気楽に言った。
「さて、トム……」
ダンブルドアは空からのグラスを置き、椅い子すに座り直して、両手の指先を組み合わせる独特の仕し種ぐさをした。