「上出来だろ?」
談だん話わ室しつがまた元通り、しもべ妖よう精せいなしの状じょう態たいになったとたん、ハリーはロンとハーマイオニーに熱っぽく言った。
「マルフォイがどこに出かけているのか、わかったんだ! とうとう追い詰めたぞ!」
「ああ、すごいよ」
宿題に染しみ込んだ大量のインクを拭ぬぐい取りながら、ロンが不ふ機き嫌げんに言った。ついさっきまでは、ほとんど完成していたレポートだ。ハーマイオニーがロンの宿題を引き寄せて、杖つえでインクを吸すい込みはじめた。
「だけど、『いろいろな生徒』と一いっ緒しょにそこに行くって、どういうことかしら?」
ハーマイオニーが言った。
「何人、関わっているの? マルフォイが大勢の人間を信用して、自分のやっていることを知らせるとは思えないけど……」
「うん、それは変だ」ハリーが顔をしかめた。
「マルフォイが、自分のやっていることはおまえの知ったこっちゃないって、クラッブに言ってるのを聞いた……それなら、マルフォイはほかの見張りの連中に……連中に……」
ハリーの声がだんだん小さくなり、じっと暖炉だんろの火を見つめた。
「そうか、なんてばかだったんだろう」ハリーが呟つぶやいた。
「はっきりしてるじゃないか? 地ち下か室しつには、あれの大きな貯ちょ蔵ぞう桶おけがあった……マルフォイは授じゅ業ぎょう中にいつでも少しくすねることができたはずだ……」
「くすねるって、何を?」ロンが聞いた。
「ポリジュース薬やく。スラグホーンが最初の授業で見せてくれたポリジュース薬を、少し盗んだんだ……マルフォイの見張りをする生徒がそんなにいろいろいるわけがない……いつものように、クラッブとゴイルだけなんだ……うん、これで辻褄つじつまが合う!」
ハリーは勢いよく立ち上がり、暖炉の前を往いったり来たりしはじめた。
「あいつらばかだから、マルフォイが何をしようとしているかを教えてくれなくとも、やれと言われたことをやる……でもマルフォイは、『必要の部屋』の外を二人がうろついているところを見られたくなかった。だからポリジュース薬を飲ませて、ほかの人間の姿を取らせたんだ……マルフォイがクィディッチに来なかったとき、マルフォイと一いっ緒しょにいた二人の女の子――そうだ! クラッブとゴイルだ!」
「ということは――」ハーマイオニーが囁ささやき声で言った。
「私が秤はかりを直してあげた、あの小さな女の子――?」
「ああ、もちろんだ!」
ハリーは、ハーマイオニーを見つめて大声で言った。
「もちろんさ! マルフォイがあのとき、『部屋』の中にいたに違いない。それで女の子は――何を寝ね呆ぼけたことを言ってるんだか――男の子は、秤を落として、外に誰だれかいるから出てくるなって、マルフォイに知らせたんだ! それに、ヒキガエルの卵を落としたあの女の子もだ! マルフォイのすぐそばを、しょっちゅう通り過ぎていながら、僕たち、気がつかなかったんだ!」
「マルフォイのやつ、クラッブとゴイルを女の子に変身させたのか?」
ロンがゲラゲラ笑い出した。
「おっどろきー……あいつらがこのごろふて腐くされているわけだ……あいつら、マルフォイにやーめたって言わないのが不思議だよ……」
「そりゃあ、できっこないさ。うん。マルフォイが、あいつらに腕の『闇やみの印しるし』を見せたなら」ハリーが言った。
「んんんん……『闇の印』があるかどうかはわからないわ」
ハーマイオニーは、疑わしいという言い方をしながら、ロンの羊よう皮ひ紙しを乾かわかし終わり、それ以上被害ひがいを被こうむらないうちにと丸めてロンに渡した。
「そのうちわかるさ」ハリーが、自信ありげに言った。
「ええ、そのうちね」ハーマイオニーは立ち上がって伸びをしながら言った。
「でもね、ハリー、あんまり興こう奮ふんしないうちに言っておくけど、『必要の部屋』の中に何があるかをまず知らないと、部屋には入れないと思うわ。それに、忘れちゃだめよ――」
ハーマイオニーはカバンを持ち上げて肩にかけながら、真剣しんけんな眼差しでハリーを見た。
「あなたは、スラグホーンの記憶を取り出すことに集中しているはずなんですからね。おやすみなさい」
ハリーは、ちょっと不ふ機き嫌げんになって、ハーマイオニーを見送った。女じょ子し寮りょうのドアが閉まったとたん、ハリーはロンに振り向いた。
「どう思う?」
「屋敷やしきしもべ妖よう精せいみたいに『姿くらまし』できたらなあ――」
ロンは、ドビーが消えたあたりを見つめて言った。
「あの『姿すがた現あらわし』試験はいただきなんだけど」