ハリーはその晩ばんよく眠れなかった。目が冴さえたまま何時間も過ぎたような気がした。マルフォイは、「必要の部屋」をどんな用途ようとに使っているのだろう。明日そこに入ったら、何を目にするだろう? ハーマイオニーが何と言おうと、マルフォイがDディーAエイの本部を見ることができたのなら、ハリーにも部屋の中が見られるはずだ。マルフォイの……いったい何だろう? 会合の場? 隠かくれ家が? 納戸なんど? 作業場? ハリーは必死で考えた。やっと眠り込んでからも、途と切ぎれ途切れの夢で眠りが妨さまたげられた。マルフォイがスラグホーンになり、スラグホーンがスネイプに変わり……。
次の朝、朝食の間中、ハリーは大きな期待で胸を高鳴たかならせていた。「闇やみの魔ま術じゅつに対する防ぼう衛えい術じゅつ」の授じゅ業ぎょうの前に自由時間がある。その時間を使い、何とか「必要の部屋」に入ろうと決心していた。ハーマイオニーは、ハリーが「部屋」に侵しん入にゅうする計画を小声で言っても、ことさらに無関心の態度を示した。ハリーを助けるつもりになれば、ハーマイオニーはとても役に立つのにと考えると、ハリーは苛立いらだった。
「いいかい」
ハリーは身を乗り出して、郵便ふくろうが配達したばかりの「日刊にっかん予よ言げん者しゃ新しん聞ぶん」を押さえ、ハーマイオニーが広げた新聞の陰かげに隠かくれてしまうのを防ふせぎながら、小声で言った。
「僕はスラグホーンのことを忘れちゃいない。だけど、どうやったら記憶を引き出せるか、まったく見当がつかないんだ。頭に何か閃ひらめくまで、マルフォイが何をやってるか探し出したっていいだろう?」
「もう言ったはずよ。あなたはスラグホーンを説得せっとくする必要があるの」
ハーマイオニーが言った。
「小こ細ざい工くするとか、呪じゅ文もんをかけるとかの問題じゃないわ。そんなことだったら、ダンブルドアがあっという間にできたはずですもの。『必要の部屋』の前でちょっかいを出している暇ひまがあったら――」
ハーマイオニーは、ハリーの手から「日刊予言者」をぐいと引っぱり、広げて一面に目をやりながら言った。
「スラグホーンを探し出して、あの人の善ぜん良りょうなところに訴うったえてみることね」
「誰だれか知ってる人は――?」
ハーマイオニーが見出しを読み出したので、ロンが聞いた。
「いるわ!」ハーマイオニーの声に、朝食を食べていたハリーもロンも咽むせ込んだ。
「でも大丈夫。死んじゃいないわ――マンダンガス。捕つかまってアズカバンに送られたわ。『亡もう者じゃ』のふりをして押し込み強ごう盗とうしようとしたことに関係しているらしいわね……オクタビウス・ペッパーとかいう人が姿を消したし……まあ、なんてひどい話。九歳の男の子が、祖そ父ふ母ぼを殺そうとして捕まったわ。『服ふく従じゅうの呪じゅ文もん』をかけられていたんじゃないかって……」
三人は黙だまり込んで朝食を終えた。ハーマイオニーはすぐに「古代こだいルーン文も字じ」の授業に向かい、ロンは、スネイプの「吸きゅう魂こん鬼き」のレポートの結論を仕上げに、談だん話わ室しつに戻もどった。ハリーは八階の廊下ろうかに向かい、「バカのバーナバス」がトロールにバレエを教えているタペストリーの反対側にある、長い石壁いしかべを目指した。