人影ひとかげのない通路に出るとすぐ、ハリーは「透とう明めいマント」をかぶったが、何も気にする必要はなかった。目的地に着いたときにも、誰だれもいなかった。「部屋」に入るのには、マルフォイが中にいるときがいいのか、いないときのほうがいいのか、ハリーには判断がつかなかった。いずれにせよ初回の試みには、十一歳の女の子に化けたクラッブやゴイルがいないほうが、事は簡単に運ぶだろう。
ハリーは目を閉じて、「必要の部屋」の扉とびらが隠かくされている壁に近づいた。先学年に習しゅう熟じゅくしていたので、やり方はわかっていた。全ぜん神しん経けいを集中して、ハリーは考えた。
「僕はマルフォイがここで何をしているか見る必要がある……僕はマルフォイがここで何をしているか見る必要がある……僕はマルフォイがここで何をしているか見る必要がある……」
ハリーは扉の前を、三度通り過ぎた。そして、興こう奮ふんに胸を高鳴たかならせながら壁に向かって立ち、目を開けた――見えたのは、相変わらず何の変哲へんてつもない、長い石壁だった。
ハリーは壁に近づき、ためしに押してみた。石壁は固く頑固がんこに突っ張ったままだった。
「オッケー」ハリーは声に出して言った。「オッケー……念ねんじたことが違ってたんだ……」
ハリーはしばらく考えてから、また開始した。目をつむり、できるだけ神経を集中した。
「僕はマルフォイが何度もこっそりやってくる場所を見る必要がある……僕はマルフォイが何度もこっそりやってくる場所を見る必要がある……」
三回通り過ぎて、こんどこそと目を開けた。
扉はなかった。
「おい、いい加減かげんにしろ」ハリーは壁に向かって苛立いらだたしげに言った。
「はっきり指示したのに……ようし……」ハリーは数分間必死に考えてから、また歩き出した。
「君がドラコ・マルフォイのためになる場所になってほしい……」
往復おうふくをやり終えても、ハリーはすぐには目を開かなかった。扉がポンと現れる音が聞こえはしないかと、ハリーは耳を澄すました。しかし、何も聞こえない。どこか遠くのほうで、鳥の鳴き声が聞こえるばかりだった。ハリーは目を開けた。
またしても扉はなかった。
ハリーは、悪態あくたいをついた。すると誰かが悲鳴を上げた。振り返ると、一年生の群れが、大騒ぎで角を曲がって逃げていくところだった。ひどく口くち汚ぎたないゴーストに出くわしてしまったと思い込んだらしい。