「えーと――あの――ゴーストは透明で――」ハリーが言った。
「ほう、大変よろしい」答えを遮さえぎったスネイプの口元がめくれ上がっていた。
「なるほど、ポッター、ほぼ六年に及ぶ魔法教育はむだではなかったということがよくわかる。ゴーストは透明で」
パンジー・パーキンソンが、甲高かんだかいクスクス笑いを漏もらした。ほかにも何人かがニヤニヤ笑っていた。ハリーは腸はらわたが煮にえくり返っていたが、深く息を吸すって、静かに続けた。
「ええ、ゴーストは透明です。でも『亡者もうじゃ』は死体です。そうでしょう? ですから、実体があり――」
「五歳の子供でもその程度は教えてくれるだろう」スネイプが鼻先はなさきで笑った。
「『亡者』は、闇やみの魔法使いの呪じゅ文もんにより動きを取り戻もどした屍しかばねだ。生きてはいない。その魔法使いの命ずる仕事をするため、傀儡かいらいのごとくに使われるだけだ。ゴーストは、そろそろ諸君しょくんも気づいたと思うが、この世を離れた魂たましいが地上に残した痕跡こんせきだ……それに、もちろん、ポッターが賢かしこくも教えてくれたように、透明だ」
「でも、ハリーが言ったことは、どっちなのかを見分けるのには、いちばん役に立つ!」
ロンが言った。
「暗い路ろ地じでそいつらと出くわしたら、固いかどうかちょっと見てみるだろう? 質問なんかしないと思うけど。『すみませんが、あなたは魂の痕跡ですか?』なんてさ」
笑いが漣さざなみのように広がったが、スネイプが生徒をひと睨にらみするとたちまち消えた。
「グリフィンドール、もう十点減点げんてん。ロナルド・ウィーズリー、我わが輩はいは君に、それ以上高度なものは何も期待しておらぬ。教室内で一寸いっすんたりとも『姿すがた現あらわし』できない固さだ」
「だめ!」憤慨ふんがいして口を開きかけたハリーの腕をつかみ、ハーマイオニーが小声で言った。
「何にもならないわ。また罰則ばっそくを受けるだけよ。ほっときなさい!」
「さて、教科書の二百十三ページを開くのだ」
スネイプが、得意げな薄うすら笑いを浮かべながら言った。
「『磔はりつけの呪じゅ文もん』の最初の二つの段落だんらくを読みたまえ……」
ロンは、そのあとずっと沈んでいた。終業ベルが鳴ると、ラベンダーがロンとハリーを追いかけてきて(ラベンダーが近づくと、ハーマイオニーの姿が不思議にも溶とけるように見えなくなった)、スネイプがロンの「姿現わし」を嘲あざけったことを、かんかんになって罵ののしった。しかし、ロンはかえって苛立いらだった様子で、ハリーと二人でわざと男子トイレに立ち寄って、ラベンダーを振ふりきってしまった。