「ここで泣いてる男がいるのか?」ハリーが興きょう味み津しん々しんで聞いた。
「まだ小さい男の子かい?」
「気にしないで!」
マートルは、いまやニタニタ笑っているロンを、小さな濡ぬれた目で見み据すえながら言った。
「誰だれにも言わないって、わたし、約束したんだから。あの人の秘密は言わない。死んでも――」
「――墓場はかばまで持っていく、じゃないよな?」ロンがフンと鼻はなを鳴らした。
「下水まで持っていく、かもな……」
怒ったマートルは、吠ほえるように叫さけんで便器べんきに飛び込み、溢あふれた水が床を濡らした。マートルをからかうことで、ロンは気を取り直したようだった。
「君の言うとおりだ」
ロンは、カバンを肩に放り上げながら言った。
「ホグズミードで追加ついか練習をしてから、試験を受けるかどうか決めるよ」
そして次の週末、試験はあと二週間と迫せまり、ロンは、試験までに十七歳になるハーマイオニーやほかの六年生たちと一いっ緒しょに出かけた。村に出かける準備をしているみんなを、ハリーは妬ねたましい思いで眺ながめていた。村までの遠足ができなくなったことを、ハリーは寂さびしく思っていたし、その日は特によく晴れた春の日で、しかもこんな快晴はここしばらくなかったからだ。しかし、ハリーはこの時間を使って、「必要の部屋」への突撃とつげきに再さい挑ちょう戦せんしようと決めていた。
「それよりもね」
玄げん関かんホールでハリーがロンとハーマイオニーにその計画を打ち明けると、ハーマイオニーが言った。
「まっすぐスラグホーンの部屋に行って、記憶を引き出す努力をするほうがいいわ」
「努力してるよ!」
ハリーは不ふ機き嫌げんになった。間違いなく努力はしていた。ここ一週間、魔ま法ほう薬やくの授じゅ業ぎょうのたびに、ハリーはあとに残ってスラグホーンを追い詰めようとした。しかし魔法薬の先生は、いつもすばやく地ち下か牢ろう教室からいなくなり、捕まえることができなかった。ハリーは、二度も先生の部屋に行ってドアを叩たたいたが、返事はなかった。しかし、二度目のときは、たしかに、古い蓄ちく音おん機きの音を慌あわてて消す気配がした。
「ハーマイオニー、あの人は、僕と話したがらないんだよ! スラグホーンが一人のときを僕が狙ねらっていると知ってて、そうさせまいとしてるんだ!」
「まあね、でも、がんばり続けるしかないでしょう?」
管かん理り人にんのフィルチの前には短い列ができていて、フィルチはいつもの「詮索せんさくセンサー」で突ついていた。列が二、三歩前に進んだので、ハリーは管理人に聞かれてはまずいと思い、答えなかった。ロンとハーマイオニーをがんばれと見送ったあと、ハーマイオニーが何と言おうと、一、二時間は「必要の部屋」に専念せんねんしようと決意して、ハリーは大だい理り石せきの階段を戻もどった。
玄げん関かんホールから見えない場所まで来ると、ハリーは「忍しのびの地ち図ず」と「透とう明めいマント」をカバンから取り出した。身を隠かくしてから、ハリーは地図を叩たたいて「われ、ここに誓ちかう。われ、よからぬことを企たくらむ者なり」と唱となえ、地図を細こまかく見回した。