城の尖塔せんとうの上に、青空が切れぎれに覗のぞきはじめた。しかし、こうした夏の訪れの印も、ハリーの心を高揚こうようさせてはくれなかった。マルフォイの企くわだてを見つけ出す試みとともにスラグホーンと会話する努力も挫折ざせつし、何十年も押し込められていたであろう記憶をスラグホーンから引き出す糸口は、見つかっていなかった。
「もう、これっきり言わないけど、マルフォイのことは忘れなさい」
ハーマイオニーがきっぱりと言った。
昼食の後、三人は中庭の陽ひだまりに座っていた。ハーマイオニーもロンも、魔法省のパンフレット、「『姿すがた現あらわし』――よくある間違いと対たい処しょ法ほう」を握りしめていた。二人とも、その日の午後に試験を受けることになっていたからだ。しかし、パンフレットなどは、概がいして神経しんけいをなだめてくれるものではない。女の子が一人、曲がり角から現れたのを見て、ロンはぎくりとしてハーマイオニーの陰かげに隠かくれた。
「ラベンダーじゃないわよ」ハーマイオニーがうんざりしたように言った。
「あ、よかった」ロンがほっとしたように言った。
「ハリー・ポッター?」女の子が聞いた。「これを渡すように言われたの」
「ありがとう……」
小さな羊よう皮ひ紙しの巻紙まきがみを受け取りながら、ハリーは気持が落ち込んだ。女の子が声の届かないところまで行くのを待って、ハリーが言った。
「僕が記憶を手に入れるまではもう授じゅ業ぎょうをしないって、ダンブルドアはそう言ったんだ!」
「あなたがどうしているか、様子を見たいんじゃないかしら?」
ハリーが羊皮紙を広げる間、ハーマイオニーが意見を述べた。しかし、羊皮紙には、ダンブルドアの細長い斜め文字ではなく、ぐちゃぐちゃした文字がのたくっていた。何なん箇か所しょも、インクが滲にじんで大きな染しみになっているので、とても読みにくい。
ハリー、ロン、ハーマイオニー
アラゴグが昨晩さくばん死んだ。
ハリー、ロン、おまえさんたちはアラゴグに会ったな。だからあいつがどんなに特別なやつだったかわかるだろう。ハーマイオニー、おまえさんもきっと、あいつが好きになっただろうに。
今日、あとで、おまえさんたちが埋葬まいそうにちょっくら来てくれたら、俺おれは、うんとうれしい。夕ゆう闇やみが迫せまるころに埋めてやろうと思う。あいつの好きな時間だったしな。
そんなに遅くに出てこれねぇってことは知っちょる。だが、おまえさんたちは「マント」が使える。無理は言わねえが、俺ひとりじゃ耐えきれねえ。
ハグリッド