ハリーは答えなかった。このところしばらく、金色の小瓶こびんが、ハリーの空想の片隅かたすみに浮かぶようになっていた。漠然ばくぜんとした形のない計画だったが、ジニーがディーンと別れ、ロンはジニーの新しいボーイフレンドを見てなぜか喜ぶ、というような筋書すじがきが、頭の奥のほうで沸々ふつふつと醸じょう成せいされていた。夢の中や、眠りと目覚めとの間の、ぼんやりした時間にだけしか意識していなかったのだが……。
「ハリー、ちゃんと聞いてるの?」ハーマイオニーが聞いた。
「えっ――? ああ、もちろん」
ハリーは我に返った。
「うん……オッケー。今日の午後にスラグホーンを捕まえられなかったら、フェリックスを少し飲んで、もう一度夕方にやってみる」
「じゃ、決まったわね」
ハーマイオニーはきびきび言いながら、立ち上がって爪先つまさきで優雅ゆうがにくるりと回った。
「どこへ……どうしても……どういう意い図とで……」ハーマイオニーがブツブツ言った。
「おい、やめてくれ」ロンが哀願あいがんした。
「僕、それでなくても、もう気分が悪いんだから……あ、隠かくして!」
「ラベンダーじゃないわよ!」
ハーマイオニーがいらいらしながら言った。中庭に女の子が二人現れたとたん、ロンはたちまちハーマイオニーの陰かげに飛び込んでいた。
「よーし」
ロンはハーマイオニーの肩越しに覗のぞいて確かめた。
「おかしいな、あいつら、なんだか沈んでるぜ、なあ?」
「モンゴメリー姉妹よ。沈んでるはずだわ。弟に何が起こったか、聞いていないの?」
ハーマイオニーが言った。
「正直言って、誰だれの親戚しんせきに何があったなんて、僕、もうわかんなくなってるんだ」
ロンが言った。
「あのね、弟が狼おおかみ人にん間げんに襲おそわれたの。噂うわさでは、母親が死し喰くい人びとに手を貸すことを拒こばんだそうよ。とにかく、その子はまだ五歳で、聖せいマンゴで死んだの。助けられなかったのね」
「死んだ?」ハリーがショックを受けて聞き返した。「だけど、狼人間はまさか、殺しはしないだろう? 狼人間にしてしまうだけじゃないのか?」
「ときには殺す」ロンがいつになく暗い表情でいった。「狼人間が興こう奮ふんすると、そういうことが起こるって聞いた」
「その狼人間、何ていう名前だった?」ハリーが急せき込んで聞いた。
「どうやら、フェンリール・グレイバックだという噂よ」ハーマイオニーが言った。
「そうだと思った――子供を襲うのが好きな狂ったやつだ。ルーピンがそいつのことを話してくれた!」ハリーが怒った。
ハーマイオニーは暗い顔でハリーを見た。