「ハリー、あの記憶を引き出さないといけないわ」ハーマイオニーが言った。
「すべては、ヴォルデモートを阻そ止しすることにかかっているのよ。恐ろしいことがいろいろ起こっているのは、結局みんなヴォルデモートに帰結きけつするんだわ……」
頭上で城の鐘かねが鳴り、ハーマイオニーとロンが、引きつった顔で弾はじかれたように立ち上がった。
「きっと大丈夫だよ」
「姿すがた現あらわし」試験を受ける生徒たちと合流するために、玄げん関かんホールに向かう二人に、ハリーは声をかけた。
「がんばれよ」
「あなたもね!」
ハーマイオニーは意味ありげな目でハリーを見ながら、地ち下か牢ろうに向かうハリーに声をかけた。
午後の魔ま法ほう薬やくの授じゅ業ぎょうには、三人の生徒しかいなかった。ハリー、アーニー、ドラコ・マルフォイだった。
「みんな『姿現わし』するにはまだ若すぎるのかね?」
スラグホーンが愛想あいそよく言った。
「まだ十七歳にならないのか?」
三人とも頷うなずいた。
「そうか、そうか」スラグホーンが愉快ゆかいそうに言った。「これだけしかいないのだから、何か楽しいことをしよう。何でもいいから、おもしろいものを煎せんじてみてくれ」
「いいですね、先生」
アーニーが両手をこすり合わせながら、へつらうように言った。一方マルフォイは、にこりともしなかった。
「『おもしろいもの』って、どういう意味ですか?」
マルフォイが不ふ機き嫌げんさを募つのらせながら言った。
「ああ、わたしを驚かせてくれ」スラグホーンが気軽に言った。
マルフォイはむっつりと「上じょう級きゅう魔ま法ほう薬やく」の教科書を開いた。この授じゅ業ぎょうがむだだと思っていることは明らかだ。ハリーは教科書の陰かげから、上うわ目め遣づかいでマルフォイを見ながら、この時間を「必要の部屋」で過ごせないことを悔くやしがっているに違いないと思った。
ハリーの思いすごしかもしれないが、マルフォイもトンクスと同じように、やつれたのではないだろうか? マルフォイの顔色が悪いのは確かだ。相変わらず青黒い隈くまがある。このごろほとんど陽ひに当たっていないからなのかもしれない。しかし、その顔には、取り澄すました傲ごう慢まんさも、興こう奮ふんも優ゆう越えつ感かんも見られない。ホグワーツ特急で、ヴォルデモートに与えられた任務にんむをおおっぴらに自慢じまんしていたときの、あの威い張ばりくさった態度は微塵みじんもない……結論は一つしかない、とハリーは考えた。どんな任務かは知らないが、その任務がうまくいっていないのだ。
そう思うと元気が出て、ハリーは「上級魔法薬」の教科書を拾い読みした。すると、教科書をさんざん書き替かえた、プリンス版の「陶とう酔すい感かんを誘さそう霊れい薬やく」が目に止まった。スラグホーンの課題かだいにぴったりなばかりか、もしかすると(そう考えたとたん、ハリーは心が躍おどった)、その薬を一口飲むようにハリーがうまく説せっ得とくできればの話だが、スラグホーンがご機嫌な状態になり、あの記憶をハリーに渡してもよいと思うかもしれない……。