ハグリッドのところに行くのが正しいと感じたのはなぜなのか、ハリーはまったくわからなかった。薬は、一度に数歩先までしか、照らしてくれないようだった。最終目的地は見えなかったし、スラグホーンがどこで登場するのかわからなかったが、しかしこれが記憶を獲得かくとくする正しい道だということはわかっていた。
玄げん関かんホールに着くと、フィルチが正面の扉とびらに鍵かぎをかけ忘れていることがわかった。ハリーはにっこり笑って勢いよく扉を開き、しばらくの間、新しん鮮せんな空気と草の匂においを吸い込んで、それから黄たそ昏がれの中へと歩き出した。
階段を降りきったところで、ハリーは急に、ハグリッドの小屋まで、野菜畑を通っていくとどんなに心地よいだろうと思いついた。厳げん密みつには寄り道になるのだが、ハリーにとっては、この気まぐれを行動に移さなければならないことがはっきりしていた。そこですぐさま野菜畑に足を向けた。うれしいことに、そして別に不思議だとは思わなかったが、そこでスラグホーン先生がスプラウト先生と話しているのに出くわした。ハリーは、ゆったりとした安らぎを感じながら、低い石いし垣がきの陰かげに隠かくれて、二人の会話を聞いた。
「……ポモーナ、お手間を取らせてすまなかった」
スラグホーンが礼儀れいぎ正しく挨あい拶さつしていた。
「権けん威い者しゃのほとんどが、夕ゆう暮ぐれ時に摘つむのがいちばん効果があるという意見ですのでね」
「ええ、そのとおりです」スプラウト先生が暖かく言った。「それで十じゅう分ぶんですか?」
「十分、十分」
ハリーが見ると、スラグホーンはたっぷり葉の茂しげった植物を腕一杯に抱えていた。
「三年生の全員に数枚ずつ行き渡るでしょうし、煮に込みすぎた子のために少し余分よぶんもある……さあ、それではおやすみなさい。本当にありがとう!」
スプラウト先生はだんだん暗くなる道を、温室のほうに向かい、スラグホーンは透とう明めいなハリーが立っている場所に近づいてきた。
ハリーは突然姿を現したくなり、「マント」を派手に打ち振って脱ぎ捨てた。
「先生、こんばんは」
「ひゃあ、こりゃあびっくり、ハリー、腰こしを抜かすところだったぞ」
スラグホーンはばったり立ち止まり、警けい戒かいするような顔で言った。
「どうやって城を抜け出したんだね?」
「フィルチが扉とびらに鍵かぎをかけ忘れたに違いありません」
ハリーは朗ほがらかに答え、スラグホーンがしかめっ面をするのを見てうれしくなった。
「このことは報告しておかねば。まったく、あいつは、適てき切せつな保ほ安あん対たい策さくより、ゴミのことを気にしている……ところで、ハリー、どうしてこんなところにいるんだね?」
「ええ、先生、ハグリッドのことなんです」
ハリーには、いまは本当のことを言うべき時だとわかっていた。
「ハグリッドはとても動揺どうようしています……でも、先生、誰だれにも言わないでくださいますか? ハグリッドが困ったことになるのはいやですから……」
スラグホーンは明らかに好こう奇き心しんを刺激しげきされたようだった。