「さあ、約束はできかねる」スラグホーンはぶっきらぼうに言った。「しかし、ダンブルドアがハグリッドを徹てっ底てい的てきに信用していることは知っている。だから、ハグリッドがそれほど恐ろしいことをしでかすはずはないと思うが……」
「ええ、巨きょ大だい蜘ぐ蛛ものことなんです。ハグリッドが何年も飼かっていたんです……禁じられた森に棲すんでいて……話ができたりする蜘く蛛もでした――」
「森には、毒蜘蛛のアクロマンチュラがいるという噂うわさは、聞いたことがある」
黒々と茂る木々のかなたに目をやりながら、スラグホーンがひっそりと言った。
「それでは、本当だったのかね?」
「はい」ハリーが答えた。「でも、この蜘蛛はアラゴグといって、ハグリッドがはじめて飼かった蜘蛛です。昨夜死にました。ハグリッドは打ちのめされています。アラゴグを埋まい葬そうするときに誰かそばにいてほしいと言うので、僕が行くって言いました」
「優やさしいことだ、優しいことだ」
遠くに見えるハグリッドの小屋の灯あかりを、大きな垂たれ目で見つめながら、スラグホーンが上の空で言った。
「しかし、アクロマンチュラの毒は非常に貴き重ちょうだ……その獣けものが死んだばかりなら、まだ乾かわききってはおるまい……勿論もちろん、ハグリッドが動揺しているなら、心ないことは何もしたくない……しかし、多少なりと手に入れる方法があれば……つまり、アクロマンチュラが生きているうちに毒を取るのは、ほとんど不可能だ……」
スラグホーンは、ハリーにというより、いまや自分に向かって話しているようだった。
「……採さい集しゅうしないのはいかにももったいない……半リットルで百ガリオンになるかもしれない……正直言って、私の給きゅう料りょうは高くない……」
ハリーはもう、何をすべきかがはっきりわかった。
「えーと」
ハリーは、いかにも躊ちゅう躇ちょしているように言った。
「えーと、もし先生がいらっしゃりたいのでしたら、ハグリッドはたぶん、とても喜ぶと思います……アラゴグのために、ほら、よりよい野の辺べ送おくりができますから……」
「いや、勿論だ」スラグホーンの目が、いまや情じょう熱ねつ的てきに輝かがやいていた。
「いいかね、ハリー、あっちで君と落ち合おう。わたしは飲み物を一、二本持って……哀あわれな獣に乾かん杯ぱいするとしよう――まあ――獣の健康を祝してというわけにはいかんが――とにかく、埋葬がすんだら、格かく式しきある葬儀そうぎをしてやろう。それに、ネクタイを変えてこなくては。このネクタイは葬式には少し派手だ……」
スラグホーンはバタバタと城に戻もどり、ハリーは大だい満まん悦えつでハグリッドの小屋へと急いだ。