ハグリッドは頷うなずいて、進み出た。巨きょ大だい蜘ぐ蛛もを両腕に抱え、大きな唸うなり声とともに、ハグリッドは亡なき骸がらを暗い穴に転がした。死骸しがいはかなり恐ろしげなバリバリッという音を立てて、穴の底に落ちた。ハグリッドがまた泣きはじめた。
「勿論もちろん、彼をもっともよく知る君には、辛つらいことだろう」
スラグホーンは、ハリー同様、ハグリッドの肘ひじの高さまでしか届かなかったが、やはりポンポンと叩たたいた。
「お別れの言葉を述べてもいいかな?」
墓はか穴あなの縁ふちに進み出たスラグホーンの口元が、満足げに緩ゆるんでいた。上質のアラゴグの毒をたっぷり採さい集しゅうしたに違いない、とハリーは思った。スラグホーンはゆっくりと、厳おごそかな声で唱となえた。
「さらば、アラゴグよ。蜘蛛の王者よ。汝なんじとの長き固き友情を、なれを知る者すべて忘れまじ! なれが亡骸は朽くち果てんとも、汝が魂たましいは、懐なつかしき森の棲家すみかの、蜘蛛の巣すに覆おおわれし静けき場所にとどまらん。汝が子孫しそんの多目たもくの眷けん属ぞくが永とこ久しえに栄え、汝が友どちとせし人々が、汝を失いし悲しみに慰なぐさめを見出さんことを」
「なんと……なんと……美しい!」
ハグリッドは吼ほえるような声を上げ、堆肥たいひの山に突つっ伏ぷして、ますます激はげしくオンオン泣いた。
「さあ、さあ」
スラグホーンが杖つえを振ると、高々と盛もり上げられた土が飛び上がり、ドスンと鈍にぶい音を立てて蜘蛛の死骸しがいの上に落ち、滑なめらかな塚つかになった。
「中に入って一杯飲もう。ハリー、ハグリッドの向こう側に回って……そうそう……さあ、ハグリッド、立って……よしよし……」
二人はハグリッドを、テーブルのそばの椅い子すに座らせた。埋まい葬そうの間、バスケットにこそこそ隠かくれていたファングが、そっと近づいてきて、いつものように、重たい頭をハリーの膝ひざに載のせた。スラグホーンは持ってきたワインを一本開けた。
「すべて毒味をすませてある」
最初の一本のほとんどを、ハグリッドのバケツ並みのマグに注ぎ、それをハグリッドに渡しながら、スラグホーンがハリーに請うけ合った。
「君の気の毒な友達のルパートにあんなことがあったあと、屋敷やしきしもべ妖よう精せいに、全部のボトルを毒味させた」
ハリーの心にハーマイオニーの表情が浮かんだ。屋敷しもべ妖精へのこの虐ぎゃく待たいを聞いたら、どんな顔をするか。ハリーはハーマイオニーには絶対に言うまいと決めた。
「ハリーにも一杯……」
スラグホーンが、二本目を二つのマグに分けて注つぎながら言った。
「……私にも一杯。さて」
スラグホーンがマグを高く掲かかげた。
「アラゴグに」
「アラゴグに」ハリーとハグリッドが唱しょう和わした。
スラグホーンもハグリッドも深ふか酒ざけをしたが、ハリーは、フェリックス・フェリシスのおかげで行き先が照らし出されていたので、自分は飲んではいけないことがわかっていた。ハリーは飲むまねだけで、テーブルにマグを戻もどした。