「俺おれはなあ、あいつを卵から孵かえしたんだ」ハグリッドがむっつりと言った。「孵ったときにゃあ、ちっちゃな、かわいいやつだった。ペキニーズの犬ぐれえの」
「かわいいな」スラグホーンが言った。
「学校の納なん戸どに隠かくしておいたもんだ。あるときまではな……あー……」
ハグリッドの顔が曇くもった。ハリーはわけを知っていた。トム・リドルが、「秘ひ密みつの部へ屋や」を開いた罪つみをハグリッドに着せ、退学になるように仕組んだのだ。しかし、スラグホーンは聞いていないようだった。天井を見上げていた。そこには真しん鍮ちゅうの鍋なべがいくつかぶら下がっていたが、同時に絹きぬ糸いとのような輝かがやく白い長い毛が、糸いと束たばになって下がっていた。
「ハグリッド、あれはまさか、ユニコーンの毛じゃなかろうね?」
「ああ、そうだ」ハグリッドが無む頓とん着ちゃくに言った。「尻尾しっぽの毛が、ほれ、森の木の枝なんぞに引っかかって抜けたもんだ……」
「しかし、君、あれがどんなに高価な物か知っているかね?」
「俺は、けがした動物に、包帯ほうたいを縛しばったりするのに使っちょる」ハグリッドは肩をすくめて言った。「うんと役に立つぞ……なにせ頑がん丈じょうだ」
スラグホーンは、もう一杯グイッと飲んだ。その目が、こんどは注意深く小屋を見回していた。ほかのお宝を探しているのだと、ハリーにはわかった。樫かしの樽たるで熟じゅく成せいさせた蜂はち蜜みつ酒しゅだとか、砂さ糖とう漬づけパイナップル、ゆったりしたベルベットの上着などが、たんまり手に入る宝だ。スラグホーンは、ハグリッドのマグに注つぎ足し、自分のにも注いで、最近森に棲すむ動物についてや、ハグリッドがどんなふうに面倒を看みているのかなどを質問した。酒とスラグホーンのおだて用の興味に乗せられたせいで、ハグリッドは気が大きくなり、もう涙を拭ぬぐうのはやめて、うれしそうに、ボウトラックル飼育しいくを長々と説明しはじめた。
フェリックス・フェリシスが、ここでハリーを軽く小こ突づいた。ハリーは、スラグホーンが持ってきた酒が急きゅう激げきに少なくなっているのに気づいた。ハリーはまだ、沈ちん黙もくしたまま「補ほ充じゅう呪じゅ文もん」をかけることができなかったが、しかし今夜は、できないかもしれないなどと考えること自体が笑しょう止し千せん万ばんだった。ハリーは一人でほくそ笑えみながら、ハグリッドにもスラグホーンにも気づかれず(二人はいまや、ドラゴンの卵の非ひ合ごう法ほう取とり引ひきについての逸話いつわを交換こうかんしていた)、テーブルの下から空になりかけた瓶びんに杖つえを向けた。たちまち酒が補充されはじめた。