「そんなことを言わんでくれ」スラグホーンが微かすかな声で言った。「君にやるかやらないかの問題ではない……君を助けるためなら、勿論もちろん……しかし、何の役にも立たない……」
「役に立ちます」ハリーははっきりと言った。「ダンブルドアには情報が必要です。僕には情報が必要です」
何を言っても安全だと、ハリーにはわかっていた。朝になれば、スラグホーンは何も覚えていないと、フェリックスが教えてくれていた。スラグホーンの目をまっすぐに見つめながら、ハリーは少し身を乗り出した。
「僕は『選ばれし者』だ。やつを殺さなければならない。あの記憶が必要なんだ」
スラグホーンはさっと蒼あおざめた。テカテカした額ひたいに、汗が光っていた。
「君はやはり、『選ばれし者』なのか?」
「もちろんそうです」ハリーは静かに言った。
「しかし、そうすると……君は……君は大変なことを頼んでいる……わたしに頼んでいるのは、実は、君が『あの人』を破滅はめつさせるのを援助えんじょしろと――」
「リリー・エバンズを殺した魔法使いを、退治たいじしたくないんですか?」
「ハリー、ハリー、勿論そうしたい。しかし――」
「恐いんですね? 僕を助けたとあいつに知られてしまうことが」
スラグホーンは無言だった。恐れ慄おののいているようだった。
「先生、僕の母のように、勇気を出して……」
スラグホーンはむっちりした片手を上げ、指を震ふるわせながら口を覆おおった。一いっ瞬しゅん、育ちすぎた赤ん坊のように見えた。
「自慢じまんできることではない……」指の間から、スラグホーンが囁ささやいた。「恥はずかしい――あの記憶の顕あらわすことが――あの日に、わたしはとんでもない惨事さんじを引き起こしてしまったのではないかと思う……」
「僕にその記憶を渡せば、先生のやったことはすべて帳ちょう消けしになります」ハリーが言った。「そうするのは、とても勇敢ゆうかんで気高けだかいことです」