ハリーはしばらく考え込み、やがて質問した。
「すると、分霊箱を全部破は壊かいすれば、ヴォルデモートを殺すことが可能なのですか?」
「そうじゃろうと思う」ダンブルドアが言った。
「分霊箱がなければ、ヴォルデモートは切り刻きざまれて減損げんそんした魂たましいを持つ、滅めっすべき運命の存在じゃ。しかし、忘れるでない。あの者の魂は修しゅう復ふく不ふ能のうなまでに損そん傷しょうされておるかもしれぬが、頭脳ずのうと魔ま力りょくは無傷じゃ。ヴォルデモートのような魔法使いを殺すには、たとえ『分霊箱』がなくなっても、非凡ひぼんな技わざと力を要するじゃろう」
「でも、僕は非凡な技も力も持っていません」ハリーは思わず口走った。
「いや、持っておる」
ダンブルドアがきっぱりと言った。
「きみはヴォルデモートが持ったことがない力を持っておる。きみの力は――」
「わかっています!」ハリーはいらいらしながら言った。
「僕は愛することができます!」
そのあとにもう一言、「それがどうした!」と言いたいのを、ハリーはやっとの思いで呑のみ込んだ。
「そうじゃよ、ハリー、きみは愛することができる」
ダンブルドアは、ハリーがいま呑み込んだ言葉をはっきりと知っているかのような表情で言った。
「これまできみの身に起こったさまざまな出来事を考えてみれば、それは偉大いだいなすばらしいものなのじゃ。ハリー、自分がどんなに非凡な人間であるかを理解するには、きみはまだ若すぎる」
「それじゃ、予言で、僕が『闇やみの帝てい王おうの知らぬ力』を持つと言っていたのは、ただ単なる――愛?」ハリーは少し失望した。
「そうじゃ――単なる愛じゃ」ダンブルドアが言った。
「しかし、ハリー、忘れるでないぞ。予言が予言として意味を持つのは、ヴォルデモートがそのようにしたからなのじゃということを。先学年の終わりにきみに話したが、ヴォルデモートは、自分にとっていちばん危険になりうる人物として、きみを選んだ――そうすることで、あの者はきみを、自分にとってもっとも危険な人物にしたのじゃ」
「でも、結局はおんなじことになる――」
「いや、同じにはならぬ!」
こんどはダンブルドアが苛立いらだった口く調ちょうになった。黒く萎しなびた手でハリーを指しながら、ダンブルドアが言った。
「きみは予言に重きを置きすぎておる」
「でも」ハリーは急せき込んだ。「でも先生は、予言の意味を――」
「ヴォルデモートがまったく予言を聞かなかったとしたら、予言は実現したじゃろうか? 予言に意味があったじゃろうか? もちろん、ない!『予言の間ま』のすべての予言が現実のものとなったと思うかね?」
「でも」ハリーは当惑とうわくした。
「でも先生は先学年におっしゃいました。二人のうちどちらかが、もう一人を殺さなければならないと――」