ハリーは衝しょう撃げきを受けていた。愛するペットが突然凶きょう暴ぼうになったような気持だった。あんな呪じゅ文もんを教科書に書き込むなんて、いったいプリンスは何を考えていたんだ? スネイプがそれを見たら、いったいどうなるんだろう? スラグホーンに言いつけるだろうか――ハリーは胃がよじれる思いだった――ハリーが今学期中、魔法薬であんなによい成績だったのはなぜかを、スラグホーンにばらすだろうか? ハリーにこれほど多くのことを教えてくれた教科書を、スネイプは取り上げるのか破は壊かいしてしまうのか……指し南なん役やくでもあり、友達でもあったあの教科書を? そんなことがあってはならない……そんなことはとても……。
「どこに行って――? なんでそんなにぐしょ濡れ――? それ、血じゃないのか?」
ロンが階段の一番上に立って、当とう惑わく顔がおでハリーの姿を見ていた。
「君の教科書が必要だ」ハリーが息を弾はずませながら言った。
「君の魔法薬の本。早く……僕に渡して……」
「でも、『プリンス』はどうするんだ?」
「あとで説明するから!」
ロンは自分のカバンから「上じょう級きゅう魔ま法ほう薬やく」の本を引っぱり出して、ハリーに渡した。ハリーはロンを置き去りにして走り出し、談だん話わ室しつに戻もどった。そこでカバンを引っつかみ、夕食をすませた何人かの生徒が驚いて眺ながめているのにも構わず、再び肖しょう像ぞう画がの穴に飛び込み、八階の廊下ろうかを矢のように走った。
踊るトロールのタペストリーの脇わきで急きゅう停てい止しし、ハリーは両目をつむって歩きはじめた。
僕の本を隠かくす場所が必要だ……僕の本を隠す場所が必要だ……僕の本を隠す場所が必要だ……。
何もない壁かべの前を、ハリーは三回往復した。目を開けると、ついにそこに扉とびらが現れていた。「必要ひつようの部へ屋や」の扉だ。ハリーはぐいと開けて中に飛び込み、扉をバタンと閉めた。
ハリーは息を呑のんだ。急いでいる上に、無む我が夢む中ちゅうだったし、トイレで恐きょう怖ふが待ち受けているにもかかわらず、ハリーは目の前の光景に威圧いあつされた。そこは、大だい聖せい堂どうほどもある広い部屋だった。高たか窓まどから幾いく筋すじもの光が射さし込み、そびえ立つ壁でできている都市のような空間を照らしていた。ホグワーツの住人が何世代にもわたって隠してきた物が、壁のように積み上げられてできた都市だ。壊こわれた家具が積まれ、ぐらぐらしながら立っているその山の間が、通路や隘あい路ろになっている。
家具類は、たぶんしくじった魔法の証しょう拠こを隠すためにしまい込んだか、城自慢じまんの屋敷やしきしもべ妖よう精せいたちが隠したかったのだろう。何千冊、何万冊という本もあった。明らかに禁きん書しょか、書き込みがしてあるか、盗品だろう。羽の生えたパチンコ、噛かみつきフリスビーなどは、まだ少し生気せいきが残っている物もあり、山のような禁じられた品々の上を、何となくふわふわ漂ただよっている。固まった薬の入った欠かけた瓶びんやら、帽子ぼうし、宝石、マントなど。さらに、ドラゴンの卵の殻からのようなもの。コルク栓せんがしてある瓶の中身はまだ禍々まがまがしく光っている。錆びた剣つるぎが何振りかと、重い血ち染ぞめの斧おのが一本。