ハリーは、隠された宝物に囲まれている幾筋もの隘路の一つに、急いで入り込んだ。巨大なトロールの剥はく製せいを通り過ぎたところで右に曲がり、少し走って、壊れた「姿すがたをくらますキャビネット棚だな」のところを左折した。去年モンタギューが押し込められて姿を消したキャビネット棚だ。最後にハリーは、酸さんをかけられたらしく、表面がボコボコになった大きな戸棚とだなの前で立ち止まった。
キーキー軋きしむ戸の一つを開けると、そこはすでに、檻おりに入った何かが隠してあった。とっくに死んでいたが、骨は五本足だった。ハリーは檻の陰かげにプリンスの教科書を隠し、きっちり戸を閉めた。
雑然ざつぜんとした廃物はいぶつの山を眺ながめて、ハリーはしばらくそこに佇たたずんだ。心臓が激はげしく胸を叩たたいていた。……こんなガラクタの中で、この場所をまた見つけることができるだろうか? ハリーは、近くの木箱の上に置いてあった、年老いた醜みにくい魔法戦士の欠けた胸きょう像ぞうを取り上げて、本を隠した戸棚の上に置き、その頭に埃ほこりだらけの古い鬘かずらと黒ずんだティアラを載のせて、さらに目立つようにした。それから、できるだけ急いでガラクタの隘路あいろを駆かけ戻もどり、廊下ろうかに出て扉とびらを閉めた。扉はたちまち元の石壁いしかべに戻もどった。
ハリーは、下の階のトイレに全速力で戻った。走りながら、ロンの「上じょう級きゅう魔ま法ほう薬やく」の教科書を自分のカバンに押し込んだ。
一分後、ハリーはスネイプの面前に戻っていた。スネイプは一言も言わずにハリーのカバンに手を差さし出した。ハリーは息を弾はずませ、胸に焼けるような痛みを感じながらカバンを手渡して、待った。
スネイプはハリーの本を一冊ずつ引き出して調べた。最後に残った魔法薬の教科書を、スネイプは入にゅう念ねんに調べてから口をきいた。
「ポッター、これは君の『上級魔法薬』の教科書か?」
「はい」ハリーはまだ息を弾ませていた。
「たしかにそうか? ポッター?」
「はい」ハリーは少し食ってかかるように言った。
「君がフローリシュ・アンド・ブロッツ書店から買った『上級魔法薬』の教科書か?」
「はい」ハリーはきっぱりと言った。
「それなれば、何故なにゆえ」スネイプが言った。「表紙の裏うらに、『ローニル・ワズリブ』と書いてあるのだ?」
ハリーの心臓が、一拍いっぱくすっ飛ばした。
「それは僕の綽名あだなです」
「君の綽名」スネイプが繰くり返した。
「ええ……友達が僕をそう呼びます」
「綽名がどういうものかは、知っている」
スネイプが言った。冷たい暗い目が、またしてもハリーの目をぐりぐりと抉えぐった。ハリーはスネイプの目を見ないようにした。心を閉じるんだ……心を閉じるんだ……しかしハリーは、そのやり方をきちんと習しゅう得とくしていなかった……。