「あのプリンスという人物はどこか怪しいって、言ったはずよ」
ハーマイオニーは、どうしてもそう言わずにはいられない様子だった。
「私の言うとおりだったでしょ?」
「いいや、そうは思わない」ハリーは頑固がんこに言い張った。
ハーマイオニーに説せっ教きょうされなくとも、ハリーはもう十分に辛つらい思いを味わっていた。土曜日の試合でプレイできない、と告げたときのグリフィンドール・チームの表情が、最悪の罰ばつだった。いまこそジニーが自分を見つめているのを感じたのに、目を合わせられなかった。ジニーの目に失望と怒りを見たくなかった。ハリーはたったいま、土曜日にはジニーがシーカーになり、ジニーの代わりにディーンがチェイサーを務つとめるようにと言ったばかりだった。試合に勝てば、もしかして試合後の陶とう酔すい感かんで、ジニーとディーンが縒よりを戻もどすかもしれない……その思いが、氷のナイフのようにハリーを刺さした。
「ハリー」ハーマイオニーが言い返した。
「どうしてまだあの本の肩を持つの? あんな呪じゅ文もんが――」
「あの本のことを、くだくだ言うのはやめてくれ!」ハリーが噛かみついた。
「プリンスはあれを書き写しただけなんだ! 誰だれかに使えって勧すすめていたのとは違う! そりゃ、断言はできないけど、プリンスは、自分に対して使われたやつを書き留とめていただけかもしれないんだ!」
「信じられない」ハーマイオニーが言った。
「あなたが事実上弁護べんごしてることって――」
「自分のしたことを弁護しちゃいない!」ハリーは急いで言った。
「しなければよかったと思ってる。何も十数回分の罰則ばっそくを食らったからって、それだけで言ってるわけじゃない。たとえマルフォイにだって、僕はあんな呪じゅ文もんは使わなかっただろう。だけどプリンスを責せめることはできない。『これを使え、すごくいいから』なんて書いてなかったんだから――プリンスは自分のために書き留めておいただけなんだ。誰かのためにじゃない……」
「ということは」ハーマイオニーが言った。
「戻もどるつもり――?」
「そして本を取り戻す? ああ、そのつもりだ」ハリーは力んだ。
「いいかい、プリンスなしでは、僕はフェリックス・フェリシスを勝ち取れなかっただろう。ロンが毒を飲んだとき、どうやって助けるかもわからなかったはずだ。それに、絶対――」
「――魔法薬に優すぐれているという、身に余あまる評ひょう判ばんも取れなかった」
ハーマイオニーが意地悪く言った。
「ハーマイオニー、やめなさいよ!」ジニーが言った。
ハリーは驚きと感謝かんしゃのあまり、つい目を上げた。
「話を聞いたら、マルフォイが『許ゆるされざる呪文』を使おうとしていたみたいじゃない。ハリーが、いい切り札を隠かくしていたことを喜ぶべきよ!」