「それで、そういうことが起こるだろうというのは、見透みとうせなかったというわけですか?」
ハリーはそう聞かずにはいられなかった。
「いいえ。言いましたでございましょう。まっ暗――」
トレローニー先生は急に言葉を切り、何が言いたいのかと疑うようにハリーを睨にらんだ。
「ダンブルドア先生にお話ししたほうがいいと思います」
ハリーが言った。
「ダンブルドア先生は知るべきなんです。マルフォイがお祝いしていたこと――いえ、誰かが先生を『部屋』から放り出したことをです」
驚いたことに、トレローニー先生はハリーの意見を聞くと、気位高く背筋せすじを伸ばした。
「校長先生は、あたくしにあまり来てほしくないと仄ほのめかしましたわ」
トレローニー先生は冷たく言った。
「あたくしがそばにいることの価値を評ひょう価かなさらない方に、無理にご一いっ緒しょ願うようなあたくしではございませんわ。ダンブルドアが、カード占うらないの警告けいこくを無視なさるおつもりなのでしたら――」
先生の骨ばった手が、突然ハリーの手首をつかんだ。
「何度も何度も、どんな並べ方をしても――」
そして先生は、ショールの下から仰ぎょう々ぎょうしくカードを一枚取り出した。
「――稲妻いなずまに撃うたれた塔とう」先生が囁ささやいた。「災難さいなん。大だい惨さん事じ。刻々こっこくと近づいてくる……」
「そうですか」
ハリーはさっきと同じ答え方をした。
「えーと……それでもダンブルドアに、その声のことを話すべきだと思います。それに、まっ暗になって『部屋』から放り出されたことなんかも……」
「そう思いますこと?」
トレローニー先生はしばらく考慮こうりょしているようだったが、ハリーには、先生がちょっとした冒険ぼうけん話を聞かせたがっていることが読み取れた。
「僕は、いま校長先生に会いにいくところです」ハリーが言った。
「校長先生と約束があるんです。一いっ緒しょに行きましょう」
「あら、まあ、それでしたら」
トレローニー先生は、微笑ほほえんだ。それから屈かがみ込んでシェリー酒の瓶びんを拾い集め、近くの壁かべのニッチに置いてあった青と白の大きな花瓶かびんに、無む造ぞう作さに投げ捨てた。