「ハリー、あなたがクラスにいないと、寂さびしいですわ」
一緒に歩きながら、トレローニー先生が感かん傷しょう的てきに言った。
「あなたは大した『予よ見けん者しゃ』ではありませんでしたが……でも、すばらしい『対たい象しょう者しゃ』でしたわ……」
ハリーは何も言わなかった。トレローニー先生の、絶え間ない宿しゅく命めい予言の「対象者」にされるのには辟易へきえきしていた。
「残念ながら――」先生はしゃべり続けた。
「あの駄だ馬ばは――ごめんあそばせ。あのケンタウルスは――カード占うらないを何も知りませんのよ。あたくし、質問しましたの――予見者同士としてざますけど――災難さいなんが近づいているという遠くの振動しんどうを、あなたも感じませんか? と。ところが、あのケンタウルスは、あたくしのことを、ほとんど滑稽こっけいだと思ったらしいんですの。そうです、滑稽だと!」
トレローニー先生の声がヒステリー気味に高くなり、瓶はもう捨ててきたはずなのに、ハリーは、シェリー酒のきつい匂においを嗅かぎ取った。
「たぶんあの馬は、あたくしが曾そう曾そう祖そ母ぼの才能を受け継いでいない、などと誰だれかが言うのを聞いたのですわ。そういう噂うわさは、嫉妬しっと深い人たちが、もう何年も前から言いふらしてきたことです。あたくしがそういう人たちに何と言ってやるか、ハリー、おわかり? あたくしの才能はダンブルドアに十分証しょう明めいずみです。そうでなかったら、ダンブルドアはこの偉大いだいな学校で、あたくしに教えさせたかしら? この長年の間、あたくしをこんなに信用なさったかしら?」
ハリーは、ゴニョゴニョと聞き取れない言葉を呟つぶやいた。
「最初のダンブルドアの面接のことは、よく憶おぼえていましてよ」
トレローニー先生は、かすれ声で話し続けた。
「ダンブルドアは、もちろん、とても感心しましたわ……。あたくしは、ホッグズ・ヘッドに泊とまっておりました。ところで、あそこはお勧すすめしませんわ――あなた、ベッドにはダニですのよ――でも、予算が少なかったの。ダンブルドアは、あたくしの部屋までわざわざお訪たずねくださったわ。あたくしに質問なさった……白はく状じょういたしますとね、はじめのうちはダンブルドアが『占うらない学がく』をお気に召さないようだと思いましたわ……そして、あたくし、なんだかちょっと変な気分になりましてね。その日はあまり食べていませんでしたの……でも、それから……」
ハリーは、いまはじめてまともに傾けい聴ちょうしていた。そのとき何が起こったかを知っていたからだ。トレローニー先生は、ハリーとヴォルデモートに関する予言をし、それがハリーの全人生を変えてしまったのだ。
「……でも、そのとき、セブルス・スネイプが、無礼にも邪魔じゃまをしたのです!」
「えっ?」
「そうです。扉とびらの外で騒ぎがあって、ドアがパッと開いて、そこにかなり粗そ野やなバーテンが、スネイプと一いっ緒しょに立っていたのです。スネイプは間違えて階段を上がってきたとか、戯言たわごとを並べ立てていましたわ。でも、あたくしはむしろ、ダンブルドアとあたくしの面接を盗み聞きしているところを捕まったのだろうと思いましたわ――だって、スネイプは、あのとき、職しょくを求めていましたもの。間違いなく、面接のコツを探り出そうとしたのですわ! そう、そのあとで、おわかりでございましょ、ダンブルドアはあたくしを採用さいようなさることにずっと乗り気になったようでしたわ。ですから、ハリー、あたくしとしては、ダンブルドアには、気取らず才能をひけらかさないあたくしと、鍵穴かぎあなから盗み聞きするような、押しつけがましい図々ずうずうしい若い男との、明らかな相違そういがおわかりになったのだと、そう考えざるをえませんわ――あら、ハリー?」
トレローニー先生は、ハリーが脇わきにいないことにやっと気づいて、振り返った。ハリーは足を止めた。二人の間は三メートルも開いていた。
ハリーは、いまはじめてまともに傾けい聴ちょうしていた。そのとき何が起こったかを知っていたからだ。トレローニー先生は、ハリーとヴォルデモートに関する予言をし、それがハリーの全人生を変えてしまったのだ。
「……でも、そのとき、セブルス・スネイプが、無礼にも邪魔じゃまをしたのです!」
「えっ?」
「そうです。扉とびらの外で騒ぎがあって、ドアがパッと開いて、そこにかなり粗そ野やなバーテンが、スネイプと一いっ緒しょに立っていたのです。スネイプは間違えて階段を上がってきたとか、戯言たわごとを並べ立てていましたわ。でも、あたくしはむしろ、ダンブルドアとあたくしの面接を盗み聞きしているところを捕まったのだろうと思いましたわ――だって、スネイプは、あのとき、職しょくを求めていましたもの。間違いなく、面接のコツを探り出そうとしたのですわ! そう、そのあとで、おわかりでございましょ、ダンブルドアはあたくしを採用さいようなさることにずっと乗り気になったようでしたわ。ですから、ハリー、あたくしとしては、ダンブルドアには、気取らず才能をひけらかさないあたくしと、鍵穴かぎあなから盗み聞きするような、押しつけがましい図々ずうずうしい若い男との、明らかな相違そういがおわかりになったのだと、そう考えざるをえませんわ――あら、ハリー?」
トレローニー先生は、ハリーが脇わきにいないことにやっと気づいて、振り返った。ハリーは足を止めた。二人の間は三メートルも開いていた。