「ハリー?」トレローニー先生は、訝いぶかしげにもう一度呼びかけた。
おそらく、ハリーの顔が蒼そう白はくだったのだろう。先生はギョッとして、心配そうな顔になった。ハリーは身動きもせずに突っ立っていた。衝しょう撃げきが波のように打ち寄せては砕くだけた。次々と押し寄せる波が、長年自分には秘密にされてきたこの情報以外のすべてのものを、意識から掻かき消していた……。
予言を盗み聞きしたのはスネイプだった。スネイプが、その予言をヴォルデモートに知らせた。スネイプとピーター・ペティグリューとがグルになって、ヴォルデモートがリリーとジェームズ、そしてその息子を追跡ついせきするように仕し向むけたのだ……。
ハリーには、もはや、ほかの事はどうでもよくなっていた。
「ハリー?」トレローニー先生がもう一度声をかけた。
「ハリー――一緒に校長先生にお目にかかりにいくのじゃなかったかしら?」
「ここにいてください」ハリーは麻ま痺ひした唇くちびるの間から言葉を搾しぼり出した。
「でも、あなた……あたくしは、『部屋』で襲おそわれたことを校長先生に申し上げるつもりで……」
「ここにいてください!」
ハリーが怒ったように繰くり返した。
ハリーがトレローニー先生の前を駆かけ抜け、ダンブルドアの部屋に通じる廊下ろうかに向かって角を曲がっていくのを、トレローニー先生は唖然あぜんとして見ていた。廊下にはガーゴイルが見張りに立っていた。ハリーはガーゴイルに向かって合あい言葉ことばを怒ど鳴なり、動く螺ら旋せん階かい段だんを、一度に三段ずつ駆かけ上がった。ダンブルドアの部屋の扉とびらを軽くノックするのではなく、ガンガン叩たたいた。すると静かな声が答えた。
「お入り」
しかし、ハリーは、すでに部屋に飛び込んでいた。
不ふ死し鳥ちょうのフォークスが振り返った。フォークスの輝かがやく黒い目が、窓の外に沈む夕日の金色こんじきを映うつして光っていた。ダンブルドアは、旅行用の長い黒マントを両腕にかけ、窓から校庭を眺ながめて立っていた。
「さて、ハリー、きみを一いっ緒しょに連つれていくと約束したのう」
ほんの一いっ瞬しゅん、ハリーは何を言われているのかわからなかった。トレローニーとの会話が、ほかのことをいっさい頭から追い出してしまい、脳みその動きがとても鈍にぶいような気がした。