「何があったのじゃ?」
「何にもありません」ハリーは即座そくざに嘘うそをついた。
「なぜ気が動転どうてんしておるのじゃ?」
「動転していません」
「ハリー、きみはよい閉へい心しん術じゅつ者しゃとは――」
その言葉が、ハリーの怒りに点火した。
「スネイプ!」
ハリーは大声を出した。フォークスが二人の背後で、小さくギャッと鳴いた。
「何かありましたとも! スネイプです! あいつが、ヴォルデモートに予言を教えたんだ。あいつだったんだ。扉とびらの外で聞いていたのは、あいつだった。トレローニーが教えてくれた!」
ダンブルドアは表情を変えなかった。しかし、沈む太陽に赤く映はえるその顔の下で、ダンブルドアがすっと血の気を失ったと、ハリーは思った。しばらくの間、ダンブルドアは無言だった。
「いつ、それを知ったのじゃ?」しばらくして、ダンブルドアが聞いた。
「たったいまです!」
ハリーが言った。叫さけびたいのを抑おさえるのがやっとだった。しかし、突然、もう我慢がまんできなくなった。
「それなのに、先生はあいつにここで教えさせた。そしてあいつは、ヴォルデモートに僕の父と母を追うように言った!」
まるで戦いの最中さなかのように、ハリーは息を荒らげていた。眉根まゆね一つ動かさないダンブルドアに背を向け、ハリーは部屋を往いったり来たりしながら拳こぶしをさすり、あたりの物を殴なぐり倒したい衝しょう動どうを、必死で抑えた。ダンブルドアに向かって怒りをぶっつけ、怒ど鳴なり散らしたかった。しかし同時に、ダンブルドアと一いっ緒しょに分ぶん霊れい箱ばこを破は壊かいしにいきたかった。ダンブルドアに向かって、スネイプを信用するなんて、バカな老人のすることだと言ってやりたかった。しかし、一方で自分が怒りを抑制よくせいしなければ、ダンブルドアが一緒に連れていってくれなくなることも恐れた……。
「ハリー」ダンブルドアが静かに言った。
「わしの言うことをよく聞きなさい」
動き回るのをやめるのも、叫さけびたいのをこらえると同じぐらい難むずかしかった。ハリーは唇くちびるを噛かんで立ち止まり、皺の刻きざまれたダンブルドアの顔を見た。