ダンブルドアは玄関の樫かしの扉とびらの脇わきで待っていた。ハリーが息せき切って、脇腹わきばらを押さえながら、石段の最上段に滑すべり込むと、ダンブルドアが振り向いた。
「『マント』を着てくれるかの」
ダンブルドアはそう言うと、ハリーがマントをかぶるのを待った。
「よろしい。では参ろうか」
ダンブルドアはすぐさま石段を下りはじめた。夏の夕ゆう凪なぎで、ダンブルドアの旅行マントはちらりとも動かなかった。ハリーは「透とう明めいマント」に隠かくれ、並んで急ぎながらまだ息を弾はずませ、かなり汗をかいていた。
「でも、先生、先生が出ていくところを見たら、みんなはどう思うでしょう?」
ハリーは、マルフォイとスネイプのことを考えながら聞いた。
「わしが、ホグズミードに一杯飲みに行ったと思うじゃろう」
ダンブルドアは気軽に言った。
「ときどきわしは、ロスメルタの得とく意い客きゃくになるし、さもなければホッグズ・ヘッドに行くのじゃ……もしくは、そのように見えるのじゃ。本当の目的地を隠かくすには、それがいちばんの方法なのじゃよ」
黄昏たそがれの薄明うすあかりの中を、二人は馬車道を歩いた。草いきれ、湖の水の匂におい、ハグリッドの小屋からの薪たきぎの煙の匂いがあたりを満たしていた。これから危険な、恐ろしいものに向かっていくことなど、信じられなかった。
「先生」
馬車道が尽きるところに校門が見えてきたとき、ハリーがそっと聞いた。
「『姿すがた現あらわし』するのですか?」
「そうじゃ」ダンブルドアが言った。
「きみはもう、できるのじゃったな?」
「ええ」ハリーが言った。
「でも、まだ免めん許きょじ状ょうをもらっていません」
正直に話すのがいちばんいいと思った。目的地から二百キロも離れたところに現れて、すべてが台無だいなしになったら?
「心配ない」ダンブルドアが言った。
「わしがまた介助かいじょしようぞ」
校門を出ると、二人は人気ひとけのない夕ゆう暮ぐれの道を、ホグズミードに向かった。道々、夕ゆう闇やみが急速に濃こくなり、ハイストリート通りに着いたときには、とっぷりと暮れていた。店の二階の窓々から、チラチラと灯あかりが見える。「三本の箒ほうき」に近づいたとき、騒々しい喚わめき声が聞こえてきた。