「ルーモス! 光よ!」
崖にいちばん近い大岩に近づき、ダンブルドアが唱となえた。金色の光が、身を屈かがめているダンブルドアから数十センチ下の暗い海面に反射はんしゃし、何千という光の玉が煌きらめいた。ダンブルドアの横の黒い岩壁がんぺきも照らし出された。
「見えるかの?」
ダンブルドアが杖つえを少し高く掲かかげて、静かに言った。崖の割れ目に、黒い水が渦を巻いて流れ込んでいるのが見えた。
「多少濡ぬれてもかまわぬか?」
「はい」ハリーが答えた。
「それでは『透とう明めいマント』を脱ぐがよい――いまは必要がない――ではひと泳ぎしようぞ」
ダンブルドアは、突然若者のような敏びん捷しょうさで大岩から滑すべり降りて海に入り、崖がけの割れ目を目指し、灯あかりの点ついた杖つえを口にくわえて完璧かんぺきな平泳ぎで泳ぎはじめた。ハリーは「透明マント」を脱ぎ、ポケットに入れてあとを追った。
海は氷のように冷たかった。水を吸った服が体に巻きつき、ハリーは重みで沈みがちだった。大きく呼こ吸きゅうすると、潮しおの香かと海草の匂においがつんと鼻はなをついた。崖の奥へと入り込んでいく杖灯りが、チラチラとだんだん小さくなっていくのを追って、ハリーは抜き手を切った。
割れ目のすぐ奥は、暗いトンネルになっていたが、満まん潮ちょう時には水没するところだろうと察しがついた。両りょう壁へきの間隔かんかくは一メートルほどしかなく、ぬめぬめした岩肌いわはだが、ダンブルドアの杖灯りに照らされるたびに、濡ぬれたタールのように光った。少し入り込むとトンネルは左に折れ、崖のずっと奥まで伸びているのがハリーの目に入った。ハリーはダンブルドアの後ろを泳ぎ続けた。かじかんだ指先が、濡れた粗あらい岩肌をこすった。
やがて、先のほうで、ダンブルドアが水から上がるのが見えた。銀色の髪かみと黒いローブが微かすかに光っている。ハリーがそこにたどり着くと、大きな洞穴ほらあなに続く階段が見えた。ぐっしょり濡れた服から水を滴したたらせながら、ハリーは階段を這はい登り、ガチガチ震ふるえながら、凍こおりつくような冷たい静せい寂じゃくの中に出た。
ダンブルドアは洞穴のまん中に立っていた。その場でゆっくり回りながら、杖を高く掲かかげて壁かべや天井を調べている。