「さよう。ここがその場所じゃ」ダンブルドアが言った。
「どうしてわかるのですか?」ハリーは囁ささやき声で聞いた。
「魔法を使った形跡けいせきがある」ダンブルドアはそれだけしか言わなかった。
体の震えが、骨も凍るような寒さのせいなのか、その魔法を認識にんしきしたからなのか、ハリーにはわからなかった。ダンブルドアが、ハリーには見えない何かに神経しんけいを集中しているのは明らかだった。ハリーは、その場を回り続けているダンブルドアを見つめていた。
「ここは、入口の小部屋にすぎない」
しばらくしてダンブルドアが言った。
「内奥ないおうに入り込む必要がある……これからは、自然の作り出す障しょう害がいではなく、ヴォルデモート卿きょうの罠わなが行く手を阻はばむ……」
ダンブルドアは洞穴の壁に近づき、ハリーには理解できない不思議な言葉を唱となえながら、黒ずんだ指先で撫なでた。ダンブルドアは、洞穴を二度巡り、ごつごつした岩のできるだけ広い範はん囲いに触ふれた。ときどき歩ほを止めては、その場所で指を前後に走らせていたが、ついにある場所で岩壁がんぺきにぴたりと手のひらを押しつけ、ダンブルドアは立ち止まった。
「ここじゃ」ダンブルドアが言った。
「ここを通り抜ける。入口が隠かくされておる」
どうしてわかるのかと、ハリーは質問しなかった。こんなふうにただ見たり触さわったりするだけで、物事を解決する魔法使いを見たことがなかったが、派手な音や煙は経験の豊かさを示すものではなく、むしろ無能力の印だということを、ハリーはとっくに学び取っていた。
ダンブルドアは壁かべから離れ、杖つえを岩壁がんぺきに向けた。アーチ型がたの輪りん郭かく線せんが現れ、隙間すきまの向こう側に強きょう烈れつな光があるかのように、一いっ瞬しゅんカッと白く輝かがやいた。
「先生、やりましたね!」
歯をガチガチ言わせながら、ハリーが言った。しかし、その言葉が終わらないうちに、輪郭線は消え、何の変哲へんてつもない元の固い岩に戻もどった。ダンブルドアが振り返った。
「ハリー、すまなかった。忘れておった」
ダンブルドアがハリーに杖を向けると、燃え盛さかる焚たき火の前で干したように、たちまち服が暖かくなり乾かわいていた。
「ありがとうございます」
ハリーは礼を言ったが、ダンブルドアはすでに、固い岩壁に再び注意を向けていた。もはや魔法は使わず、ダンブルドアはただ佇たたずんで、じっと壁を見つめていた。まるでそこに、とても興味深いことが書かれているかのようだった。ハリーは身動きもせず黙だまっていた。ダンブルドアの集中を妨さまたげたくなかった。