すると、かっきり二分後に、ダンブルドアが静かに言った。
「ああ、まさかそんなこととは。なんと幼稚ようちな」
「先生、何ですか?」
「わしの考えでは」
ダンブルドアは傷ついていないほうの手をローブに入れて、銀の小こ刀がたなを取り出した。ハリーが魔法薬の材料を刻きざむのに使うナイフのようなものだった。
「通行料を払わねばならぬらしい」
「通行料?」ハリーが聞き返した。
「扉とびらに、何かやらないといけないんですか?」
「そうじゃ」ダンブルドアが言った。
「血じゃ。わしがそれほど間違まちごうておらぬなら」
「血?」
「幼稚だと言ったじゃろう」
ダンブルドアは軽蔑けいべつしたようでもあり、ヴォルデモートがダンブルドアの期待する水準に達しなかったことに、むしろ失望したような言い方だった。
「きみにも推測すいそくできたことと思うが、進入する敵は、自らその力を弱めなければならないという考えじゃ。またしてもヴォルデモート卿きょうは、肉体的損そん傷しょうよりも、はるかに恐ろしいものがあることを、把握はあくし損そこねておる」
「ええ、でも、避さけられるのでしたら……」
痛みなら十分に経験ずみのハリーは、わざわざこれ以上痛い思いをしたいとは思わなかった。
「しかし、ときには避けられぬこともある……」
ダンブルドアはローブの袖そでを振ってたくし上げ、傷ついたほうの手の前腕を出した。
「先生!」
ダンブルドアが小こ刀がたなを振り上げたので、ハリーは慌あわてて飛び出して止めようとした。
「僕がやります。僕なら――」
ハリーは何と言ってよいかわからなかった――若いから? 元気だから? しかし、ダンブルドアは微笑ほほえんだだけだった。銀色の光が走り、まっ赤な色がほとばしった。岩の表面に黒く光る血が点々と飛び散った。
「ハリー、気持はうれしいが――」
ダンブルドアは、自分で腕につけた深い傷を、杖つえ先さきでなぞりながら言った。スネイプがマルフォイの傷を治なおしたと同じように、ダンブルドアの傷はたちまち癒いえた。
「しかしきみの血は、わしのよりも貴重じゃ。ああ、これで首尾しゅびよくいったようじゃな」
岩肌いわはだに、銀色に燃えるアーチ型がたの輪りん郭かくが再び現れた。こんどは消えなかった。輪郭の中の、血痕けっこんのついた岩がさっと消え、そこから先はまっ暗くら闇やみのように見えた。