「何だったのですか?」
「たぶん、分霊箱を取ろうとする者を待ち構かまえていた、何かじゃな」
ハリーは振り返って湖を見た。湖面は再び鏡のように黒く輝かがやいていた。波紋は不自然なほど早く消えていたが、ハリーの心臓は、まだ波立なみだっていた。
「先生は、あんなことが起こると予想していらっしゃったのですか?」
「分霊箱にあからさまに手出しをしようとすれば、何かが起こるとは考えておった。ハリー、非常によい考えじゃった。我々が向かうべき相手を知るには、もっとも単たん純じゅんな方法じゃ」
「でも、あれは何だったのか、わかりません」
ハリーは不気味に静まり返った湖面を見ながら言った。
「あれら、と言うべきじゃろう」
ダンブルドアが言った。
「あれ一つだけ、ということはなかろう。もう少し歩いてみようかの?」
「先生?」
「何じゃね? ハリー?」
「湖の中に入らないといけないのでしょうか?」
「中に? 非常に不運な場合のみじゃな」
「分ぶん霊れい箱ばこは、湖の底にはないのでしょうか?」
「いやいや……分霊箱はまん中にあるはずじゃ」
ダンブルドアは湖の中心にある、緑色の霞かすんだ光を指した。
「それじゃ、手に入れるには、湖を渡らなければならないのですか?」
「そうじゃろうな」
ハリーは黙だまっていた。頭の中でありとあらゆる怪物が渦巻うずまいていた。水中の怪物、大おお海うみ蛇へび、魔物、水魔すいま、妖怪ようかい……。
「おう」
ダンブルドアがまた急に立ち止まった。こんどこそ、ハリーはぶつかってしまった。一いっ瞬しゅん、ハリーは暗い水際みずぎわに倒れかけたが、ダンブルドアが傷ついていないほうの手でハリーの腕をしっかりとつかみ、引き戻もどした。
「ハリー、まことにすまなんだ。前まえもって注意するべきじゃったのう。壁側かべがわに寄っておくれ。然しかるべき場所を見つけたと思うのでな」