ハリーはダンブルドアが何を言っているのかさっぱりわからなかった。ハリーの見るかぎり、この場所は、ほかの暗い岸辺きしべとまったく同じように見えた。しかし、ダンブルドアは、何か特別なものを見つけたようだった。こんどは岩肌いわはだに手を這はわせるのではなく、何か見えない物を探してつかもうとするように、ダンブルドアは空中を手探りした。
「ほほう」
数秒後、ダンブルドアがうれしそうに声を上げた。ハリーには見えなかったが、空中で何かをつかんでいる。ダンブルドアは水辺に近づいた。ダンブルドアの留とめ金がねつきの靴くつの先が岩のいちばん端はしにかかるのを、ハリーははらはらしながら見つめていた。空中でしっかり手を握りながら、ダンブルドアはもう片方の手で杖つえを上げ、握り拳こぶしを杖つえ先さきで軽く叩たたいた。
とたんに、赤みを帯びた緑色の太い鎖くさりがどこからともなく現れた。鎖は湖の深みからダンブルドアの拳へと伸び、ダンブルドアが鎖を叩くと、握り拳を通って蛇のように滑すべり出した。ガチャガチャという音を岩壁がんぺきにうるさく反はん響きょうさせながら、鎖はひとりでに岩の上にとぐろを巻き、黒い水の深みから何かを引っぱり出した。ハリーは息を呑のんだ。小舟の舳先へさきが水面を割って幽霊ゆうれいのごとく現れ、鎖と同じ緑色の光を発しながら漣さざなみも立てずに漂ただよって、ハリーとダンブルドアのいる岸辺に近づいてきた。
「あんな物がそこにあるって、どうしておわかりになったのですか?」
ハリーは驚きょう愕がくして聞いた。
「魔法は常に跡あとを残すものじゃ」
小舟が軽い音を立てて岸辺にぶつかったとき、ダンブルドアが言った。
「ときには非常に顕著けんちょな跡をな。トム・リドルを教えたわしじゃ。あの者のやり方はわかっておる」
「この……この小舟は安全ですか?」
「ああ、そのはずじゃ。ヴォルデモートは、自分自身が分ぶん霊れい箱ばこに近づいたり、またはそれを取り除いたりする必要がある場合には、湖の中に自ら配置したものの怒りを買うことなしに、この湖を渡る必要があったのじゃ」
「それじゃ、ヴォルデモートの舟で渡れば、水の中にいる何かは僕たちに手を出さないのですね?」