そのときハリーの目に飛び込んできたのは、湖面のすぐ下を漂ただよっている、大だい理り石せきのように白いものだった。
「先生!」
ハリーの驚きょう愕がくした声が、静まり返った水面に大きく響ひびいた。
「何じゃ?」
「水の中に手が見えたような気がします――人の手が!」
「さよう、見えたことじゃろう」ダンブルドアが落ち着いて言った。
消えた手を捜さがして湖面に目を凝こらしながら、ハリーはいまにも吐はきそうになった。
「それじゃ、水から飛び上がったあれは――?」
ダンブルドアの答えを待つまでもなかった。杖灯りが別の湖面を照らし出したとき、水面のすぐ下に、こんどは仰向あおむけの男の死体が横たわっているのが見えたのだ。見開いた両りょう眼がんは蜘く蛛もの巣すで覆おおわれたように曇くもり、髪かみや衣服いふくが身体からだの周まわりに煙のように渦巻うずまいている。
「死体がある!」
ハリーの声は、上ずって、自分の声のようではなかった。
「そうじゃ」
ダンブルドアは平静へいせいだった。
「しかし、いまはそのことを心配する必要はない」
「いまは?」
やっとのことで水面から目を逸そらし、ダンブルドアを見つめながらハリーが聞き返した。
「死体が下のほうで、ただ静かに漂ただよっているうちは大丈夫じゃ」ダンブルドアが言った。
「ハリー、屍しかばねを恐れることはない。暗くら闇やみを恐れる必要がないのと同じことじゃ。もちろん、その両方を密ひそかに恐れておるヴォルデモート卿きょうは、意見を異ことにするがのう。しかし、あの者は、またしても自みずからの無知を暴露ばくろした。我々が、死や暗闇に対して恐れを抱くのは、それらを知らぬからじゃ。それ以外の何ものでもない」
ハリーは無言だった。反論したいとは思わなかったが、周りに死体が浮かび、自分の下を漂ただよっていると思うとぞっとしたし、それよりも何よりも、死体が危険ではないとは思えなかった。