「先生」
ハリーは理性的に聞こえるように努力した。
「先生、相手はヴォルデモートなのですよ――」
「言葉が足りなかったようじゃ、ハリー。こう言うべきじゃった。ヴォルデモートは、この島にたどり着くほどの者を、すぐさま殺したいとは思わぬじゃろう」
ダンブルドアが言い直した。
「ヴォルデモートは、その者が、いかにしてここまで防ぼう衛えい線せんを突破とっぱしおおせたかがわかるまでは、生かしておきたいじゃろうし、もっとも重要なことじゃが、その者がなぜ、かくも熱心に水すい盆ぼんを空からにしたがっているかを知りたいことじゃろう。忘れてならぬのは、ヴォルデモート卿きょうが、分ぶん霊れい箱ばこのことは自分しか知らぬと信じておることじゃ」
ハリーはまた何か言おうとしたが、こんどはダンブルドアが静かにするようにと手で制せいし、明らかに考えをめぐらしている様子で、少し顔をしかめながらエメラルドの液体を見た。
「間違いない」
ダンブルドアがやっと口をきいた。
「この薬は、わしが分霊箱を奪うばうのを阻そ止しする働きをするに違いない。わしを麻ま痺ひさせるか、なぜここにいるかを忘れさせるか、気を逸そらさざるをえないほどの苦しみを与あたえるか、もしくはそのほかのやり方で、わしの能力を奪うじゃろう。そうである以上、ハリー、きみの役目は、わしに飲み続けさせることじゃ。わしの口が抗あらがい、きみが無理に薬を流し込まなければならなくなってもじゃ。わかったかな?」
水盆を挟はさんで、二人は見つめ合った。不ふ可か思し議ぎな緑の光を受けて、二人の顔は蒼あお白じろかった。ハリーは無言だった。一いっ緒しょに連れてこられたのは、このためだったのだろうか――ダンブルドアに耐え難がたい苦痛を与えるかもしれない薬を、無理やり飲ませるためだったのだろうか?
「憶おぼえておるじゃろうな」ダンブルドアが言った。
「きみを一緒に連れてくる条件を」
ハリーはダンブルドアの目を見つめながら、躊ちゅう躇ちょした。ダンブルドアの青い目が水盆の光を映うつして緑色になっていた。
「でも、もし――?」
「誓ちかったはずじゃな? わしの命令には従うと」
「はい、でも――」
「警告けいこくしたはずじゃな? 危険が伴うかもしれぬと」
「はい」ハリーが言った。「でも――」
「さあ、それなら」
ダンブルドアはそう言うと、再び袖そでをたくし上げ、空からのゴブレットを掲かかげた。
「わしの命令じゃ」