「先生、聞こえますか?」
ハリーは大声で繰くり返した。声が洞どう窟くつにこだました。
ダンブルドアは喘あえぎ、ダンブルドアの声とは思えない声を発した。ダンブルドアが恐きょう怖ふに駆かられた声を出すのを、ハリーはいままで聞いたことがなかったのだ。
「やりたくない……わしにそんなことを……」
ダンブルドアの顔は蒼そう白はくだった。よく見知っているはずのその顔と曲がった鼻はな、半月メガネをハリーはじっと見つめたが、どうしてよいのかわからなかった。
「……いやじゃ……やめたい……」ダンブルドアが呻うめいた。
「先生……やめることはできません、先生」ハリーが言った。
「飲み続けなければならないんです。そうでしょう? 先生が僕に、飲み続けなければならないっておっしゃいました。さあ……」
自分自身を憎み、自分のやっていることを嫌悪けんおしながら、ハリーはゴブレットを無理やりダンブルドアの口元に戻もどし、傾け、中に残っている薬を飲み干させた。
「だめじゃ……」
ハリーがダンブルドアに代わってゴブレットを水すい盆ぼんに入れ、薬で満たしているとき、ダンブルドアが呻くように言った。
「いやじゃ……いやなのじゃ……行かせてくれ……」
「先生、大丈夫ですから」
ハリーの手が震ふるえていた。
「大丈夫です。僕がついています――」
「やめさせてくれ。やめさせてくれ」ダンブルドアがまた呻いた。
「ええ……さあ、これでやめさせられます」
ハリーは嘘うそをついて、ゴブレットの液体をダンブルドアの開いている口に流し込んだ。
ダンブルドアが叫さけんだ。その声はまっ黒な死の湖面を渡り、茫洋ぼうようとした洞穴ほらあなに響ひびき渡った。
「だめじゃ、だめ、だめ……だめじゃ……わしにはできん……できん。させないでくれ。やりたくない……」
「大丈夫です。先生。大丈夫ですから!」
ハリーは大声で言った。手が激はげしく震ふるえ、六杯目の薬をまともにすくうことができないほどだった。水盆はいまや半分空からになっていた。
「何にも起こっていません。先生は無事です。夢を見ているんです。絶対に現実のことではありませんから――さあ、これを飲んで。飲んで……」