軽い衝しょう撃げきとともに、小舟は岸に着いた。ハリーは飛び降り、急いでダンブルドアを介助かいじょした。岸に降り立ったとたん、ダンブルドアの杖つえを掲かかげた手が下がり、炎の輪が消えた。しかし、亡者は二度と水から現れはしなかった。小舟は再び水中に沈んだ。鎖くさりもガチャガチャ音を立てながら湖の中に滑すべり入っていった。ダンブルドアは大きなため息をつき、洞どう窟くつの壁かべに寄り掛かった。
「わしは弱った……」ダンブルドアが言った。
「大丈夫です、先生」
ハリーが即座そくざに言った。まっ蒼さおで疲ひ労ろう困こん憊ぱいしているダンブルドアが心配だった。
「大丈夫です。僕が先生を連れて帰ります……先生、僕に寄り掛かってください……」
そしてハリーは、ダンブルドアの傷ついていないほうの腕を肩に回し、その重みをほとんど全部背負って湖の縁ふちを歩き、元来た場所へと校長先生を導みちびいた。
「防御ぼうぎょは……最終的には……巧たくみなものじゃった」ダンブルドアが弱々しく言った。
「一人ではできなかったであろう……きみはよくやった。ハリー、非常によくやった……」
「いまはしゃべらないでください」
ダンブルドアの言葉があまりに不ふ明めい瞭りょうで、足取りがあまりに弱々しいのが、ハリーには心配でならなかった。
「お疲れになりますから……もうすぐここを出られます……」
「入口のアーチはまた閉じられているじゃろう……わしの小こ刀がたなを……」
「その必要はありません。僕が岩で傷を負いましたから」
ハリーがしっかりと言った。
「どこなのかだけ教えてください……」
「ここじゃ……」
ハリーはすりむいた腕を、岩にこすりつけた。血の貢みつぎ物ものを受け取ったアーチの岩は、たちまち再び開いた。二人は外側の洞どう窟くつを横切り、ハリーはダンブルドアを支え、崖がけの割れ目を満たしている氷のような海水に入った。
「先生、大丈夫ですよ」
ハリーは何度も声をかけた。弱々しい声も心配だったが、それよりダンブルドアが無言のままでいるほうがもっと心配だった。
「もうすぐです……僕が一いっ緒しょに『姿すがた現あらわし』します……心配しないでください……」
「わしは心配しておらぬ、ハリー」
凍こおるような海中だったが、ダンブルドアの声がわずかに力強くなった。
「きみと一緒じゃからのう」