沈ちん黙もくが流れた。ハリーは自分の体に閉じ込められ、身動きもできず、姿を隠かくしたまま二人を見つめ、遠くに死し喰くい人びとの戦いの音が聞こえはしないかと、耳を研とぎ澄すましていた。ハリーの目の前で、ドラコ・マルフォイはアルバス・ダンブルドアをただ見つめていた。ダンブルドアは、なんと、微笑ほほえんだ。
「ドラコ、ドラコ、きみには人は殺せぬ」
「わかるもんか!」ドラコが切り返した。
その言い方がいかにも子供っぽいと自分でも気づいたらしく、ハリーはドラコが顔を赤らめるのを、緑の明かりの下に見た。
「僕に何ができるかなど、校長にわかるものか」
マルフォイは前より力強く言った。
「これまで僕がしてきたことだって知らないだろう!」
「いや、いや、知っておる」ダンブルドアが穏おだやかに言った。
「君はケイティ・ベルとロナルド・ウィーズリーを危あやうく殺すところじゃった。この一年間、きみはわしを殺そうとして、だんだん自じ暴ぼう自じ棄きになっていた。失礼じゃが、ドラコ、全部中途ちゅうと半端はんぱな試みじゃったのう……あまりに生なま半はん可かなので、正直言うてきみが本気なのかどうか、わしは疑うたごうた……」
「本気だった!」マルフォイが激はげしい口く調ちょうで言った。
「この一年、僕はずっと準備してきた。そして今夜――」
城のずっと下のほうから、押し殺したような叫さけび声がハリーの耳に入ってきた。マルフォイは、ぎくりと体を強張こわばらせて後ろを振り返った。
「誰だれかが善戦ぜんせんしているようじゃの」
ダンブルドアは茶飲ちゃのみ話でもしているようだった。
「しかし、きみが言いかけておったのは……おう、そうじゃ、『死喰い人』を、この学校に首しゅ尾びよく案内してきたということじゃのう。それは、さすがにわしも不可能じゃと思うておったのじゃが……どうやったのかね?」
しかしマルフォイは答えなかった。下のほうで何事か起こっているのに耳を澄ませたまま、ほとんどハリーと同じぐらい体を硬こう直ちょくさせていた。
「きみ一人で、やるべきことをやらねばならぬかもしれぬのう」ダンブルドアが促うながした。
「わしの護衛が、きみの援軍えんぐんを挫くじいてしまったとしたらどうなるかの? たぶん気づいておろうが、今夜ここには、『不ふ死し鳥ちょうの騎き士し団だん』の者たちも来ておる。それに、いずれにせよ、きみには援護えんごなど必要ない……わしはいま、杖つえを持たぬ……自衛じえいできんのじゃ」
マルフォイは、ダンブルドアを見つめただけだった。