「なるほど」
マルフォイが、しゃべりもせず動きもしないので、ダンブルドアが優やさしく言った。
「みんなが来るまで、怖こわくて行動できないのじゃな」
「怖くない!」
マルフォイが唸うなった。しかし、まだまったくダンブルドアを傷つける様子がない。
「そっちこそ怖いはずだ!」
「なぜかね? ドラコ、きみがわしを殺すとは思わぬ。無む垢くな者にとって、人を殺すことは、思いのほか難むずかしいものじゃ……それでは、きみの友達が来るまで、聞かせておくれ……どうやって連中を潜せん入にゅうさせたのじゃね? 準備が整うまで、ずいぶんと時間がかかったようじゃが」
マルフォイは、叫さけび出したい衝しょう動どうか、突き上げる吐き気と戦っているかのようだった。ダンブルドアの心臓にぴたりと杖を向けて睨にらみつけながら、マルフォイはゴクリと唾つばを飲み、数回深呼吸した。それからこらえきれなくなったように口を開いた。
「壊こわれて、何年も使われていなかった『姿すがたをくらますキャビネット棚だな』を直さなければならなかったんだ。去年、モンタギューがその中で行方不明になったキャビネットだ」
「ああぁぁー」
ダンブルドアのため息は、呻うめきのようでもあった。ダンブルドアはしばらく目を閉じた。
「賢かしこいことじゃ……たしか、対ついになっておったのう?」
「もう片方は、ボージン・アンド・バークスの店だ」マルフォイが言った。
「二つの間に通路のようなものができるんだ。モンタギューが、ホグワーツにあったキャビネット棚に押し込まれたとき、どっちつかずに引ひっ掛かかっていたけど、ときどき学校で起こっていることが聞こえたし、ときどき店の出来事も聞こえたと話してくれた。まるで棚が二箇所かしょの間を往いったり来たりしているみたいに。しかし自分の声は誰だれにも届かなかったって……結局あいつは、試験にはパスしていなかったけど、無理やり『姿すがた現あらわし』したんだ。おかげで死にかけた。みんなは、おもしろいでっち上げ話だと思っていたけど、僕だけはその意味がわかった――ボージンでさえ知らなかった――壊れたキャビネット棚を修理しゅうりすれば、それを通ってホグワーツに入る方法があるだろうと気づいたのは、この僕だ」
「見事じゃ」ダンブルドアが呟つぶやいた。
「それで、『死し喰くい人びと』たちは、きみの応援おうえんに、ボージン・アンド・バークスからホグワーツに入り込むことができたのじゃな……賢い計画じゃ、実に賢い……それに、きみも言うたように、わしの目と鼻はなの先じゃ……」
「そうだ」
マルフォイは、ダンブルドアに褒ほめられたことで、皮肉にも勇気と慰なぐさめを得たようだった。
「そうなんだ!」