「……もちろん……ロスメルタじゃ。いつから『服ふく従じゅうの呪じゅ文もん』にかかっておるのじゃ?」
「やっとわかったようだな」マルフォイが嘲あざけった。
下のほうから、また叫さけび声が聞こえた。こんどはもっと大きい声だった。マルフォイはビクッとしてまた振り返ったが、すぐダンブルドアに視線しせんを戻もどした。ダンブルドアは言葉を続けた。
「それでは、哀あわれなロスメルタが、店のトイレで待ち伏せして、一人でトイレにやって来たホグワーツの学生の誰だれかにネックレスを渡すよう命令されたというわけじゃな? それに毒入り蜂はち蜜みつ酒しゅ……ふむ、当然ロスメルタなら、わしへのクリスマスプレゼントだと信じて、スラグホーンにボトルを送る前に、きみに代わって毒を盛もることもできた……実に鮮あざやかじゃ……実に……哀れむべきフィルチさんは、ロスメルタのボトルを調べようなどとは思うまい……どうやってロスメルタと連れん絡らくを取っていたか、話してくれるかの? 学校に出入りする通信つうしん手段は、すべて監視かんしされていたはずじゃが」
「コインに呪じゅ文もんをかけた」
杖つえを持った手がひどく震ふるえていたが、マルフォイは、話し続けずにはいられないかのようにしゃべった。
「僕が一枚、あっちがもう一枚だ。それで僕が命令を送ることができた――」
「『ダンブルドア軍団ぐんだん』というグループが先学期に使った、秘密の伝達でんたつ手段と同じものではないかな?」
ダンブルドアが聞いた。気軽な会話をしているような声だったが、ハリーは、ダンブルドアがそう言いながらまた二、三センチずり落ちるのに気がついた。
「ああ、あいつらからヒントを得たんだ」マルフォイは歪ゆがんだ笑いを浮かべた。
「蜂蜜酒に毒を入れるヒントも、『穢けがれた血』のグレンジャーからもらった。図書室であいつが、フィルチは毒物を見つけられないと話しているのを聞いたんだ」
「わしの前で、そのような侮ぶ蔑べつ的てきな言葉は使わないでほしいものじゃ」
ダンブルドアが言った。マルフォイが残忍ざんにんな笑い声を上げた。
「いまにも僕に殺されるというのに、この僕が、『穢れた血』と言うのが気になるのか?」
「気になるのじゃよ」ダンブルドアが言った。
まっすぐ立ち続けようと踏ふんばって、ダンブルドアの両足が床を上滑うわすべりするのを、ハリーは見た。
「しかし、いまにもわしを殺すということについては、ドラコよ、すでに数分という長い時間が経たったし、ここには二人しかおらぬ。わしはいま丸腰まるごしで、きみが夢にも思わなかったほど無む防ぼう備びじゃ。にもかかわらず、きみはまだ行動を起こさぬ……」
ひどく苦にがい物を口にしたかのように、マルフォイの口が思わず歪ゆがんだ。