「ドラコ、殺やるんだよ。さもなきゃ、お退どき。代わりに誰かが――」
女が甲高かんだかい声で言った。ちょうどそのとき、屋上への扉とびらが再びパッと開き、スネイプが杖つえを引ひっ提さげて現れた。暗い目がすばやくあたりを見回し、防壁に力なく寄り掛かっているダンブルドアから、怒いかり狂った狼男を含む四人の死し喰くい人びと、そしてマルフォイへと、スネイプの目が走った。
「スネイプ、困ったことになった」
ずんぐりしたアミカスが、目と杖でダンブルドアをしっかりと捕とらえたまま言った。
「この坊主ぼうずにはできそうもない――」
そのとき、誰だれかほかの声が、スネイプの名をひっそりと呼んだ。
「セブルス……」
その声は、今夜のさまざまな出来事の中でも、いちばんハリーを怯おびえさせた。はじめて、ダンブルドアが懇願こんがんしている。
スネイプは無言で進み出て、荒々しくマルフォイを押しのけた。三人の死し喰くい人びとは一言も言わずに後ろに下がった。狼おおかみ男おとこでさえ怯えたように見えた。
スネイプは一いっ瞬しゅん、ダンブルドアを見つめた。その非情な顔の皺しわに、嫌悪けんおと憎しみが刻きざまれていた。
「セブルス……頼む……」
スネイプは杖つえを上げ、まっすぐにダンブルドアを狙ねらった。
「アバダ ケダブラ!」
緑の閃光せんこうがスネイプの杖つえ先さきから迸ほとばしり、狙い違たがわずダンブルドアの胸に当たった。ハリーの恐きょう怖ふの叫さけびは、声にならなかった。沈ちん黙もくし、動くこともできず、ハリーはダンブルドアが空中に吹き飛ばされるのを見ているほかなかった。ほんのわずかの間、ダンブルドアは光る髑髏どくろの下に浮いているように見えた。それから、仰向あおむけにゆっくりと、大きな軟やわらかい人形のように、ダンブルドアは屋上の防壁ぼうへきの向こう側に落ちて、姿が見えなくなった。