「クルーシ――」
踊る炎に照らされた目の前の姿に向かって、ハリーは再び叫んだ。しかしスネイプは、またしても呪じゅ文もんを阻そ止しした。薄うすら笑いを浮かべているのが見えた。
「ポッター、おまえには『許ゆるされざる呪文』はできん!」
炎が燃え上がる音、ハグリッドの叫ぶ声、閉じ込められたファングがキャンキャンと激はげしく吠ほえる声を背後に、スネイプが叫んだ。
「おまえにはそんな度ど胸きょうはない。というより能力が――」
「インカーセ――」
ハリーは、吠えるように唱となえた。しかしスネイプは、煩わずらわしげに、わずかに腕を動かしただけで、呪文を軽くいなした。
「戦え!」ハリーが叫んだ。「戦え、臆おく病びょう者もの――」
「臆病者? ポッター、我わが輩はいをそう呼んだか?」スネイプが叫んだ。
「おまえの父親は、四対一でなければ、決して我輩を攻撃こうげきしなかったものだ。そういう父親を、いったいどう呼ぶのかね?」
「ステューピ――」
「また防ふせがれたな。ポッター、おまえが口を閉じ、心を閉じることを学ばぬうちは、何度やっても同じことだ」
スネイプはまたしても呪じゅ文もんを逸そらせながら、冷笑した。
「さあ、行くぞ!」
スネイプはハリーの背後にいる巨大な死し喰くい人びとに向かって叫さけんだ。
「もう行く時間だ。魔法省が現れぬうちに――」
「インペディ――」
しかし、呪文を唱となえ終わらないうちに、死ぬほどの痛みがハリーを襲おそった。ハリーはがっくりと芝生しばふに膝ひざをついた。誰だれかが叫んでいる。僕はこの苦しみできっと死ぬ。スネイプが僕を、死ぬまで、そうでなければ気が狂うまで拷問ごうもんするつもりなんだ――。
「やめろ!」
スネイプの吠ほえるような声がして、痛みは、始まったときと同じように突然消えた。ハリーは杖つえを握りしめ、喘あえぎながら暗い芝生に丸くなって倒れていた。どこか上のほうでスネイプが叫んでいた。
「命令を忘れたのか? ポッターは、闇やみの帝てい王おうのものだ――手出しをするな! 行け! 行くんだ!」
兄きょう妹だいと巨大な死喰い人が、その言葉に従って校門めがけて走り出し、地面が振動しんどうするのをハリーは顔の下に感じた。怒りのあまり、ハリーは言葉にならない言葉を喚わめいた。その瞬しゅん間かん、ハリーは、自分が生きようが死のうがどうでもよかった。やっとの思いで立ち上がり、よろめきながら、ハリーはひたすらスネイプに近づいていった。いまやヴォルデモートと同じぐらい激はげしく憎むその男に――。